沢沿いに続く林道を歩き、山に入り、稜線に続く杉林を抜けると、やがて原生林に入っていった。ブナやナラの、大きな老人達が生きる、澄みきった生気の満ちる、神聖な領域だった。前を歩くのは昭夫さんだ。熊に猪、鹿が残していった痕跡を追いながら、全神経…
大地より目覚め、その一生を山に捧げ、山に生きてきた木。 その木が朽ちた時、キノコはその朽ち木を分解して再び大地に返すもの。 木はゆっくりと崩れてゆくその中で、何十年何百年という今までの一生を振り返り、その先の、次なる命へと思いを馳せているこ…
枯れ葉に埋もれていたナメコ。 もし僕がこの場所に来なかったなら、木の根本に座り込まなかったら、このまま誰にも見つからずに萎れて朽ちていっただろう。 それはそれでこのナメコの辿る道。 この地を取り囲む広大な山々では、殆どのキノコに山菜、木の実達…
集落から遠く離れた山奥に佇む、ブナの森。 秋の晴れ空の下、穏やかに流れる風の中、厚く積もった枯れ葉の大地の上に、僕はただ一人いた。 膝をつき、枯れ葉を散らしながら大地を撫でてゆく。 枯れ葉をひと撫ですると、現れたのは幾つもの小さな実。 ブナの…
秋の暖かい昼下がり、昭夫さんと僕はカボチャ畑に寝そべり、本を読んだり昼寝をしたりしていた。 ずっとバタバタしていた仕事がようやく落ち着き、それは心休まる、穏やかな時間だった。 眠気に誘われるままにウトウトしていると、森の中からけたたましくカ…
家のすぐ裏の山へ入ってゆくと、やがて小さな谷を流れる、澄みきった静かな沢に出会える。 いつでもその沢はそこにあり、同じような顔で、行くたびに毎回違う世界へ連れていってくれる。 冬は雪崩で行けないけれど、春、雪を踏みしめて行くと、森が芽吹き、…
山の深みへと続く峠の入口に、ほこらがある。 木々に囲まれ、苔むしたほこら。 師匠がこの山に入る時には、必ず手を合わす場所だ。 そんなほこらに、クルミと栗がいくつか転がっていた。 木から落ちたのだろうか? 辺りを見回しても栗の木も、クルミの木も無…
集落を抜けると、道は、山の深き懐に包まれていった。 直ぐ真横は切り立った崖。 覗くと、はるか谷底を沢が澄みきった水で地を浄めている。 紅葉で燃える森をくぐってゆくと、何処からともなくカツラの木の甘い匂いが漂ってきた。 その香りは川となり、風に…
秋のふきのとう。 新芽は、これからやってくる雪、その雪が溶けて空から降り注ぐ春の陽を、枯れゆくふきの葉の蔭でじっと待っていた。 彼らにとって、これからやってくる冬はどれ程過酷な世界なのだろう。 小さな新芽はそんな世界に挑む強靭な命だった。 摘…
新潟県阿賀町の友達の家にきた。 日の出ととも家を出、未だ見ぬ未知の町を歩いた。 秋のひんやりとした空気の中、森の奥から静かに小川が流れ、辺りを静めていた。 鳥が藪の中を走り回り、カサカサと枯れ葉で音を奏でていた。 どんな人がこの家に暮らしてい…
僕の今住んでいる小さな集落は、谷間に静かに佇み、四方を山々に、広がる雄大な大地に囲まれています。 それらは豊かな贈り物を毎日僕らに届けてくれます。 夜が明けて外に出ると、今では秋の澄み切った空気の中、山の背から顔を出したばかりの朝日が、暖か…
ある晴れた日の朝のこと。深まる秋の空気の中、庭の草をいじっていると、一本の草の花の先にふと目が奪われました。花の先には、絶命し、干からびたハエが一匹止まっていたのです。蟻等に食べられることなく、まるで彫刻の様に、命の尽きたその体をこの世界…
叶津番所。 そこは、奥会津の山々に囲まれ250年もの間、どっしりと地に佇み、人々の営みを見つめ、支えてきた番所。 毎年そこではヨガ合宿が行われているそうだ。 「大自然の冒険と田舎暮らしについて、一時間程話をしてもらえませんか」と主宰者さんからお…
necchu-ec.com 僕の友達には、常識にとらわれずに生きている、面白い人達が沢山居ます。 彼らは時に世間一般からは変人と呼ばれることがあります。 でも僕は変人だとは一切思いません。 自分に正直に、真面目に生きている普通の人だと思っています。 梅干し…
秋の山を歩く。 草や木の葉が赤に黄に染まっていた。 葉を覆う朝露が、陽に照らされて輝いていた。 朝の目覚めの喜びと、葉の散る間際の寂しさを吸収し、水は大気に散ってゆく。 森の様々な感情を含んだ水は、この世界の多様性の中に染み込んでゆく。 秋はど…
夏の間、雨が全く降らず、畑も森も山も乾き果てていたここ奥会津では連日、雨が続いています。 空が今までの分の埋め合わせをするかの様に。 しとしと、しとしと・・・瑞々しい音を奏でながら、雨は乾いた大地を一滴一滴潤しています。 畑に行こうと戸を開け…
お弁当。容器は、漆塗りの曲げわっぱ。幼稚園時代に買ってもらった大切な曲げわっぱだ。火力を間違えて焦がしてしまった玄米に、誕生日プレゼントに梅干し仙人さんから貰った梅干し。草が伸び放題のジャングルと化した庭で、強靭に育ち、採れた無農薬無肥料…
1年半前、20数年間身につけ続けていたパンツを捨てた。パンツに代わり、自作の褌を僕は身につけるようになった。褌を腰に、僕は日本を飛び立ち、北米の荒野を旅した。毎日毎日、偉大なる大河ユーコン川、雄大なる氷河の溶け水で褌を洗い、木の枝に吊るして…
会津の象徴、磐梯山。その麓に佇む猪苗代湖。夕陽が空を、湖を、砕ける1つ1つの波を、波に撫でられる砂浜を燃やした。森のなかで遊んでいた人々が、一人また一人と湖畔に自然と集まってきた。これこそが人々誰しもが求めるもの。夕陽が沈む。辺りが暗くな…
小さな小さな蜜蜂を捕まえに、毎日蜜蜂の巣箱に寄ってくる黄色雀蜂達。 雀蜂が近づく度に、蜜蜂達は固まり、その小さな体を震わせて抵抗する。 小さくて激しい生命の激突だ。 全身全霊全力で生きる眩しき命。 そんな雀蜂達を虫とり網で捕まえる。 箸ではさみ…
何もかもが初心者な僕。薪割りも当然下手くそだ。薪割りを始めて間もなく、斧の柄を思い切り丸太に叩きつけてしまい、見後に柄を折ってしまった。爺から受け継いだ大切な斧だ。このままでは冬の命を繋ぐ暖、薪を作ることが出来ない。早速、柄の取り替えにか…
落ちかけた陽は空を染め上げ、それは一晩中消えることがなかった。 黒々としたスプルースの森を隔てて、空と川が向き合っていた。涼しい風が静けさと共に流れてくる。フクロウが鳴く森の中から、狼の遠吠えが響いてきた。その震える声には一言では決して言い…
全国信用金庫協会さんで毎月発行される小冊子「楽しいわが家」の8月号に僕の文章を掲載させて頂きました。 一人でも多くの人々に自然からのメッセージを伝え、人々の心が自然に少しでも近づき、他のすべての生き物と調和のとれた世界に!この世界の自然が元…
早朝の沼沢湖。打ち上がっている流木を拾いながら湖岸に歩いてゆく。暫く歩いていると、気持ちが落ち着く場所を見つけた。そこは森の木の葉に頭上を覆われ、湖面に森が写る静かな場所だった。広いこの地で、自分が特に心地よいと感じる場所を見つけた時は嬉…
数ヶ月後に確実にやってくる冬。 そこを生きるために、薪割りを今日から始めた。 バリバリ割れる感触がたまらず、くさびをハンマーで、丸太に夢中になって打ち込んでゆく。 気づくと汗で全身びしょ濡れになり、体は焼石の様に熱かった。 脳裏に涼しい沼沢湖…
「昔はあったけどもういらないから切っちまった」 誰に聞いてもそんな話が多く、近くで中々見つからない梅の木。 それでもようやく1本、貴重な1本の木を見つけた。 近くの山に住む、梅干し仙人の木だった。 数日前、梅干し仙人の家に野菜を届けに行った時、…
強烈な日差しに焼かれる暑い午後。 あまりにも暑く、体は熱を帯び、汗がびしゃびしゃと止まらなかった。 たまらず、近くの山の中に住む友達に電話をかけ、家を出た。 向かう先は山の中に横たわる、静かな湖・沼沢湖。 森の木々に隠れた人の誰もいない、誰か…
ね山々の間を縫い、森を駆け巡り、朝の息を抱えて静かに吹いてくる朝の風。 虫や鳥の鳴き声、草木の香り、朝の涼しさを乗せた風に撫でられるヨモギとドクダミ達。 早朝に摘んできた野の精達だ。 風に当たり、音を浴び、彼らと一緒になって涼をとりながら静か…
半年程前、気づいたら福島県の山奥の地、金山町に僕は引っ越していた。 それは暗くて寒い、初めての会津の冬だった。 数ヵ月間の荒野の旅で使いきり、空になっていたエネルギーを溜めながら、冬を静かに生きてきた。 そして春が来た! 春を迎えた! 今まで静…
3羽の鶏が家族入りしてからそろそろ1ヶ月位たつのかな? 玄関を出ると彼らはいつでも何処からかパタパタパターと元気よく駆けてきて、僕の足元に集まってくる。 畑を弄っているときも近くで草を、虫をついばみながら戯れ、何処にいくのにも必ず僕の後をつ…