旅する蜂ブログ

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旅する蜂ブログ

自然を愛する男の日記 現在、カナダ・アラスカのユーコンの荒野で生きている!

春の息吹と共に

ラバージ湖の畔で1週間、氷の溶けるのを待っていた訳ではあるが、ただ単に氷が溶けるのだけを待っていたのではない。僕には氷の他に、待っていた別のものがあった。
飛行機から降り立ち、外に出てまず目に入った物は、天を突き刺すかのようにとんがったトウヒの木々であった。道路脇に、街中に、森の中に、峰に雪を被った山々が遠くにそびえ、その山々の麓に・・・どこまでも広がっているかのような広大なユーコンの地にトウヒは生えていた。それがこの地のシンボルであるかのようにトウヒの木々が生えているのである。この地に降りたってはじめのころはトウヒのとんがった葉の枝先に、ほんの少し新芽の気配が漂っているだけであった。それらを見て、あとどれくらいで、新芽が芽吹くのか検討もつかなかった。2週間?3週間?1か月後?全く分からなかった。僕は氷の溶けるのと同時にこのトウヒの新芽が芽吹くのをひたすら待ったのである。
実はこのトウヒの新芽は生で食べられ、お茶も作れるのである。僕はそれを心の底から楽しみにしていた。長い荒野の旅で、トウヒの新芽・・・それは僕の体を作り、命を繋いでくれる重要なもの。旅の出発はこのトウヒの新芽が芽吹くのと重なりたいな・・・と毎日毎日思っていた。
昨日、強風によりラバージ湖の氷が消え去り、僕は出発を決意した。そして今日、街中を歩いていると、なんとトウヒの新芽が今にも芽吹こうとしていたのである!
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もうすでに芽吹き、プルプルの新鮮な黄緑色の新芽を出している枝もあった。堪らず僕は摘まんで口に入れた。苦味と共に喜びがほとばしった。
サマータイムである今のユーコン。日は長い。恐らく明日には、殆どのトウヒの木々から、輝かしく弾ける新芽達を見ることが出来るであろう!!その新芽と共に僕は出発する。僕と一緒に旅をしたいと思っている新芽をどんどん食べ、体の一部にし、一緒に旅をしようではないか!!

ではでは、長くなりましたが・・・トウヒの新芽と共に、行ってきます!!

PS
日本でも、山菜等の春の命が次々と土からボコボコ芽吹いてることだろう。日本にいる多くの人がこれらを口にし、思いっきり元気になれるよう祈っています♪

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ラバージ湖へと流れる雪解けの小川
この川を越えるのに何度もゆるゆるの氷が崩れてずっこけ泥だらけになった

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ラバージ湖のすぐそばに住むデンマークの老夫婦に家に招かれた
彼らは、若い頃、夫婦二人で自然のなかを冒険し、それをデンマークでの講演会で人々に伝える仕事をやっていた。以後、カナダに移住し、楽しく生きている

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食べ物は野菜と豆と米

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食器達

氷は消え、ついにカヌーを浮かべるときがやって来た

パラパラと降っていた雨は止み、それに代わるように風が吹き始めた。風は徐々にその強さを増していった。全てを吹き飛ばすかのように荒れはじめた。僕は堪らず岩影に身を隠した。風は土埃を舞いあげ、木々をユサユサと揺らし、湖の湖面上に大波を生じさせていた。湖に浮かぶ氷は大波によって亀裂が生じ、どんどん崩れていった。風は朝まで止むことなく吹き続けた。
早朝、目覚めていつものように湖を眺めた。昨日まで半分以上湖面を覆っていた氷は跡形もなく消え、山影から差し込むオレンジ色の朝日がキラキラと水面に光輝いていた。美しかった。そして、それは出発の合図でもあった。
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僕はサッと荷物をまとめてキャンプ場を後にし、ヒッチハイクで町へ出た。
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到着初日から色々とお世話になっているカヌーショップ“カヌーピープル”へ行き、扉を潜ると、薄暗い店内からいきなり声が聞こえてきた。
「オーーーーユーマ!森から出てきたか!!元気だったか?!俺は今日出発するぜ!!」ホワイトホースに到着した初日に出会ったイングランド人のハンターという男だった。彼も僕と同じ、ユーコン川を1人アラスカのベーリング海を目指してカヌーで下ろうとしている。明日、最終準備を整えて明後日出発する予定の僕は、のんびりと話ながら彼の準備を見守った。
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閉店間際、オーナーと店員、ハンターと僕で旅の出発を祝って乾杯!
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その後、ハンターは店の裏を流れるユーコン川の水にカヌーを浮かべ去っていった。
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僕の出発地点はユーコン川の支流、テズリン川(ジョンソンクロッシング)だ。この川を1週間程かけて下り、後にユーコン川へと合流する。(1週間氷の溶けるのを待ったラバージ湖は通らないのだが・・・)相当な事がない限りこれ以後、道中ハンターと出会うことはないだろう。それを思うと、川に流されてどんどん小さくなってゆく彼の後ろ姿を見ながら、何だか寂しさが滲み出てきた。ハンター、無事を祈る!!そして最高の川旅を!!!



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PS キャンプ中、不発だった魚の代わりに自生するワイルドオニオンを採集!

森の中で待つ

短い夜が明け、樹上から鳥達の鳴き声が響き渡る。それを聞いて僕は目を覚ます。テントを出、すぐ目の前に広がる湖へと歩いて行く。凍てついた水のなかに入ってゆき、そして顔を洗う。冷たい水をかぶり、目が一瞬にして覚める。そして顔をあげ、広大な湖すを見渡す。湖の表面にはまだ氷が張りつめていた。それを見、僕は思う。まだだ・・・と。


 1週間程前、ユーコン川の玄関口ホワイトホースに到着した僕は現在、町から車で30分程離れたラバージ湖の畔(レイクラバージキャンプ場)にキャンプを張っている。毎日、湖に張った氷の状態を観察し続けている。時たまブラックベアーやきつねが顔をだす森の中に、パリパリと響き渡る氷の割れる音を聞きながら本を読み、食べられる野草を勉強し、時々執筆しながら、僕は待っている。湖の氷が溶けたらカヌーを水に浮かせ、いよいよ旅立つのである!!それはあと1週間~10日程      

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森の中に出来上がった最上の僕の巣

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日々の日課、薪割り

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ヒッチハイクで乗せてくれたおじさん

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町に行くとき以外、靴は基本的に履かない

ユーコン川へ、出発だ!!

棚を開け、静かに眠っていた分厚いアルバムを取りだし、1ページ、また1ページと開いていった。僕がまだ物心つく前の赤ン坊の頃から、小学高学年位までの写真が順々に張ってあった。僕の回りには、いつでも自然が写っていた。 親に連れられて、僕は幼い頃から自然と戯れてきた。夏になれば北海道や離島等へキャンプ道具を積んだ車で行き、森のなかでキャンプしながら旅をした。週末は毎週のように秩父の川に行って魚を釣って焚き火をし、冬になれば雪山でスキーをしていた。

幼稚園は“鴻巣ひかり幼稚園”という所へ入り、様々な体験を積んだ。ひかり幼稚園というところは、野性味溢れる動物園の様な所であった。男女関係なく皆すっぽんぽんに、或いはパンツ一丁になって泥の中で遊び、イナゴや銀杏等を採取して焚き火で焼いて食べ、ガチョウ・鶏・兎・ヤギなどと戯れ、何メートルもの高さの木に猿のようにのぼって、尾瀬等の山で登山をした。 記憶を遡ると、自然のなかで過ごしているとき僕はいつでも楽しいとはまた違う、途方もない満足感・解放感に満たされていた。
今思えば、幼い頃のこういった経験が今に繋がっているのだろう。僕は自然が、大大大大大すきである!!

3年前のあるとき、風呂に入っていた僕はふと思った。これまで生きてきた21年間、体を洗う石鹸で僕は、どれだけ僕の大好きな自然を自ら痛めつけてきたのであろうか・・・、そしてこれから生きる何十年で一体どれ程痛めつけてしまうのだろうか・・・と。それから僕の日常から石鹸は消え失せた。いつでも湯か水で体を流すのみになった。髭も水のみで剃るようになった。不思議と体臭は無臭で、痒みなんかも全く出ない。肌はスベスベになり、強くなった。何より僕は、心地よかった。それから1ヶ月前から僕の生活からシャンプーが消えて、歯磨き粉(重曹にとってかわった)が消え失せた。ここ1ヶ月、物凄く心地よかった。草木や小虫達に喜ばれている気がした。 もっともっと地球の自然を感じたい!!それをかなえるため、僕は今日、ユーコンへ向い、家を出た。

これから10月まで僕は自然にどっぷり浸かって生きていく。カナダ・ホワイトホースを源流とし、アラスカ・ベーリング海まで3000キロ程の長さで流れる大河、ユーコン川。源流にカヌーを浮かべ、ベーリング海を目指して荒野の中で生きていくのである。川には数多くの魚がヒレを振るわせて泳ぎ、ハーブやベリーが数多く自生する。魚を釣り自生する植物を採取し、その地の生きた水を飲む。体の細胞殆どをユーコンの荒野と一緒にし、自然に溶け込むのである。靴を脱ぎ捨てて野山を裸足で駆け巡り、川で沐浴し、天上の星達を眺めながら眠る。ベーリング海を目指すといってもそれはただの薄っぺらい目標であり、別にたどり着かなくても全くいい。気に入った場所があればそこで長期間滞在し、その場をとことん満喫しようと思う! だけども、初めて足を踏み入れるユーコンの自然、そこに対して恐怖心がある。だから僕は牙をむかれないように子ネズミのように縮こまり、謙虚に大人しく生かさせて頂こうと思う。自分なりに、自然へ出来るだけ負担をかけないよう生きてきたこれまでの24年間の人生、そして自然を愛する心、それらをもって自然は大いに僕の味方をしてくれるものと確信している。全く根拠は無いのだが・・・ とにかく、行ってきます!!!! こんなに自然を愛するように育ててくれ、そして自分の道を歩かせてくれている両親に、物凄く感謝!!すっかり忘れ去られた頃にひょっこりと何の問題もなく帰ってくるので、安心して気楽に待っててくれれば良いと思う。めっっっっっっっちゃくちゃユーコンの生活を楽しんでくる♪

雪山の毛虫

 その夜、空に雲は無く、近くに夜の輝きを霞ませる人工光も一切なかった。

透き通った空気の中、無数の星々が夜空一面をびっしりと覆い尽くしていた。

時々吹く微風が笹の葉をカサカサと揺らし、山の稜線の窪みに張られた小さなテントの中にスー…と入り込む。

ボーボーと音をたてて吹くバーナーの火がゆらりと微かに傾く。

バーナーの上にはコッフェルが置いてあり、キムチの香りを漂わせながらグツグツと具が煮えている。

僕らはそれを囲って箸で突きながら、静かで心地よい夜を堪能していた。

雪山の装備の点検と、雪山トレーニングでの谷川岳・西黒尾根のことだ。

 

「うちに来るなまはげは皆よぉ、足がフラフラしてて酔っ払ってんだ」

なまはげを一度も生で見たことの無い僕にとってその言葉はとても新鮮で、現地に生きた人だからこそ言える重みがあった。

へぇ―――・・・と相槌を打ちながら、僕は頭の中でべろんべろんに酔っ払っているなまはげを思い描いていた。

「何でなまはげが酔っ払うんですか?」

「それはな、なまはげは訪れる家々で酒を飲んでけと言われるんだ。だからよ、家を回るたんびになまはげって奴ぁは酒を飲んでんだ。酔っ払ってても小さかった頃の俺にとっては恐ろしかったがな」

なまはげだけでは無かった。貧乏だった青年時代、無賃乗車で必死に駅から脱走した話、雪山で一夜にして1mの大雪に降られ、山に3日間閉じ込められた話、蟹族と呼ばれていた話・・・刺激的で心を躍らす話が次から次へと火を噴いていた。

なんたって、僕以外の3人は皆もう60歳を超えており、僕の3倍近くも生きているのだから。人が生きてゆく中で他の人と同じ人生など1つもあり得ない。人が生きた数だけ、この世の中には多彩な人生があるのである。僕は3人の口から出てくる物語にジッと耳を傾けていた。

    そして数時間にも及ぶ会話が落ち着いた頃、テントの外に顔を出して、ふと上を見上げてみた。

暗闇の中ぼんやりと聳える谷川岳の背後から、夜空に弾ける様に星が散らばっていた。僕はしばらくの間、滅多に見られぬその星空に見入り、その後テントに戻って眠りについた。

 翌朝(今日12月4日)は晴れ渡った空から、さんさんと陽光が降り注いでいた。

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暖かい太陽に恵まれて意気揚々とテントを畳み、下山しようとしたその時である。

足元の真っ白く傷の無い雪面に、黒くて枝の様なものが目に入った。

黒糖かりんとうを持ってきていた僕は、初めそれを見た時、「かりんとうを落としたんかな」と思った。しかしそんな所でかりんとうを開け覚えも無く、ましてやそこでザックを広げてもいなかった。

一体何だろう、なにかのうんこかな?と顔を近づけて見てみると、その黒い物がウニリッと動いた、かと思うと、一うねり、二うねりとうねって雪面上を移動していくのである。

毛虫だった。真っ黒い毛虫が、冷たい雪の上を這っているのである。

毛虫??毛虫が・・・こいつはなんでここにいるんだ・・・?

そう疑問が浮かんだ瞬間、僕の頭の中で想像が四方八方に弾け飛んでいった。

 

 毛虫は繭を作ってサナギで越冬し、次の年に成虫の蝶となって空を飛び回る。それが定められた毛虫の運命である(※全部が全部ではないが)。しかしそいつはそんな決められた運命に逆らい、蝶になる事を捨ててまで大冒険に出たのである。何百といる兄弟の中でまだ誰も行ったことない、足を踏み入れたことも無い谷川岳の頂だ。食べる葉も無く、大雪が降り積もる中で越冬する事など不可能である。そこへ行くことは毛虫にとってはつまり死を意味する。それでもそいつはありきたりの運命に逆らって命を捨ててまで冒険に出たのである。まだ見たことの無い世界に対する強く熱い念望に動かされて。秋、そいつは繭になることはせず、ずっと機会をうかがっていた。誰かが自分の傍に腰を下ろすのをジッと待っていた。しかし時は流れ、冷たい雨が降り、その機会は一向に現れず、刻一刻と寒くなる空気の中、柔らかく黒い身を丸めて震わせて、自らの命の限界が近づいていることをひしひしと感じていた。今日明日、もう来なかったら死んでしまうだろう・・・そう思った時、僕らの誰かがそいつの傍に腰を下ろしたのだ。そいつは“今だ!”と意気込んではっしとザックの布にしがみ付き、僕らと一緒に山の上へ上へと登っていったのである。今まで見慣れた生い茂る草木の景色は変わってゆき、ついには白銀の世界が辺り一面に広がったのである。

 

 どこへ向かっているのやら、ウネリウネリと小さな体をうねらせて、そいつは僕の足元の冷たい雪面を這っていた。僕はそいつをそのままいじくらずにそっとし、山を降りて行った。いじくることも何もできなかった。そいつの思うがままにしてやろうと。決まりきった運命を変えてまで冒険したのかもしれない、そいつに何だか親近感が湧いてしまったのだ。

そいつは恐らくもう間もなく死んでしまうことだろう。そして虫社会では今頃、山の頂へ旅立った、ある若い一匹の毛虫の話題で持ちきりだ。

 

※毛虫の物語は四方に飛び散った妄想の一欠けらである

 

北米の広大な荒野へ行こう!!

 静まり返った真っ暗な部屋の中、暖かく心地の良い布団にくるまれながらも僕はなかなか寝付くことが出来ずにいた。噴火する山の如く、マグマの様に心の奥底から興奮がゴボボコと湧き出てくる。

こういう日が何日も何日も続いている。

自由のききにくく重たい体は狭苦しい小さな東京にあっても、身軽でどこまでも好きな所へ行ける心は、東京から遠く離れた広大な北米の大自然の中を、ふらふらと漂っていた。僕は頭の中で荒野を1人、カヌーで川を下っているのである。

 

  今からおよそ100年前、アメリカから10万を超える人々が北米の荒野にやってきたという。目的は金だ。カナダ・ユーコン準州のドーソンで金が発見され、それを聞きつけた人々が一攫千金を夢見たのである。しかし、夢はそれ程までに甘いものではなく、大自然の猛威に晒されて、何人もの人々が命を落としたという。まさに命がけの金堀だ。

僕は毎夜布団に潜り込んでは自分自身に問いかけていた。もし仮にその当時のアメリカに僕が生まれていたのならば、彼らと同じように金に惹かれて北を目指していただろううか・・・?と。出る答えはいつでもこうである。行っちまっていた!たとえ周りから猛反対を受けてもそれらを押し切ってでも行っちまっていた。

そしてゴールドラッシュから100年経った今現在、僕はまさにその北米の地に向かおうとしている!目的は金でない。金なんて無い貧乏な僕ではあるが、金が欲しくて行くのではない。北米の大自然が僕を呼んでいるのである!

 

そういうわけで、長くなったが来る2017年、カナダ・アラスカの地に僕は行ってくる!カナダ・ホワイトホースを出発し、アラスカを抜けてベーリング海を目指して3、000kmをカヌーで下るのだ。荒野の中で一体人々がどんな生活を営んでいるのか・・・。木々に動物達、川に山々が一体どんな姿を見せてくれるのか・・・。それらをじっくりと記録しながら、ゆっくりとカヌーで下るのである!

 

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赤線:カヌー

黄線:陸路(たぶんバス)

黒線:海路(おそらく飛行機)

あぁ、あと残り数か月・・・寝付けぬ夜はまだまだ続きそうである・・・。

 

あ、北米に行く前に日本でまずやりたいことがあった!

それは・・・「雪かき東北縦断の旅」である。  

越後三山縦走 ~所長からの選別~

 その日、東京都世田谷区のある建物の中は普段よりも荒れ狂っていた。電話は止むことなく鳴り響き、FAXに印刷機は休むことなく次から次へと紙を吐き出し、社員は皆PCの画面を凝視しながらカタカタと絶え間なくキーボードを打ち鳴らして、舞い込んでくる仕事を処理している。そうこの日11月4日は、昨日の文化の日・祝日明けともあって仕事がいつもより溜まっており、社内は普段よりも目まぐるしく動いていた。そんな中、僕の机はすっとぼけたようにガランとしている。トイレだろうか・・・?5分程待ってみる。だが、僕は現れない。買い出しだろうか・・・?30分程待ってみる。だが僕は現れない。外出しているのだろうか・・・?3時間程待ってみる。あぁやっぱり現れない。営業が休む時や外出する時、出張する時にその旨を書かなくてはならないホワイトボードが壁にぶら下がっている。そのホワイトボードの僕の欄には何も書かれていない。はっちゃん・・・一体はっちゃんはどこへ行っちまったんだ?僕の隣の席の常井さんは、いつまでも現れない僕の行方を疑問に思っていた。常井さんの斜め前には久末所長が険しい顔でPCを睨んでいる。180㎝を裕に越える背丈に、ライザップで鍛え上げられた筋肉を全身に身に纏った、仁王様の様な久末所長がPCを睨むその姿は気迫に満ち溢れている。常井さんはその巨大な背中を椅子の背にググッと寄りかながら眼鏡を上げて、いつもののほほんとした調子で尋ねた。

「所長、あれ、はっちゃんは・・・?はっちゃんは今日、休みですか?」

「八須?あぁあいつは今山、山に登ってるよ!」所長は顔を一瞬だけ緩ませてPCから離し、再び険しい顔に戻してPCに向き直った。

「山ぁ・・・山かぁ」常井さんはそう呟いた。

そう僕は会社から200㌔以上も離れた新潟県の山の中に居た。

 

 その一週間前の週に、僕は、断られるだろうな~・・・無理かな~・・・そう心の中で呟きながら、玉砕覚悟で久末所長に11月4日を有給休暇にして貰えるよう申請した。

「まじか・・・おいおい4日かぁ・・・」所長はそう呟き、眉間に皺を寄せて悩んだ。その間、僕はやや下を見ながらジッと動かず、所長の頭に念を送っていた。許してくれますように、許してくれますようにと。その甲斐あってか返事は予想外に早かった。数秒後、所長は顔を上げて、明るい声で僕に言った。

「山だろ?行ってこい!!行ってこい!!!」

それを聞いて僕の気持ちは飛び上がり、満面の笑顔でお礼を言った。

選別だった。それは所長からもうじき会社を去る僕への選別だった。物欲の全く無い僕にとってそれは金や物よりも遥かに価値のある選別であった。所長の大きな懐によって、僕は11月3,4,5,6日と4連休をとれ、その連休で越後三山(越後駒ケ岳、中ノ岳、八海山)の縦走に晴れて挑むことが出来るようになったのである。そうして僕はホワイトボードに有給と書くこともすっかりと忘れ、2日の夜に4人の仲間と共に東京を出て新潟県中越地方へ向かったのだった。

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 11月4日、越後駒ケ岳から中ノ岳に向かう道にも、中ノ岳から八海山に向かう道にも、どこにも僕の姿は無かった。従来の計画ではその日、越後駒ケ岳にある駒の小屋を早朝に発って、中ノ岳に向かっている筈であった。しかし、その道筋のどこをどう探しても僕の姿は無かった。岩の下に隠れているのだろうか・・・?だがいくら岩の下を覗いたところで僕は隠れて居ない。木影で休んでいるのだろうか・・・?しかしいくら木を切り倒して探そうと僕は居ない。それもそのはず、11月4日丸々1日24時間、僕は越後駒ケ岳に留まっていたのだから。天気が予想以上に荒れに荒れ狂ったのである。朝から晩まで大量の雪を伴った風がごうごうと怒り狂った様に唸りをあげて、止まることなく吹き荒れていた。濃いガスが辺り一面を覆い尽くし、何も見えない。雪はどんどん降り積もり、終いには山の上をすっかり雪景色に変えてしまった。本格的な雪山装備で来なかった僕らは、危険だと判断して先に進むことを諦め、穴に身を隠すネズミの様に駒の小屋に引きこもったのである。

 

 小屋の中は僕ら以外に誰も居ない。冬を前に管理人は小屋を去り、世間では平日ともあって無人と化した小屋には人の気配は全くなかった。広間の壁に付いている3つの窓の内、2つは木の板で塞がれて、唯一残る1つの窓から洩れる細々とした光が、暗い小屋内にもれてくる。外は猛然と吹雪いており、差し込む光も貧相極まりない。頼りなくポッポ燃える蝋燭の小さな火を囲って、色彩に富む様々な話がやたらめったら交差する。

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しかし、その蝋燭を囲む人の輪の中に僕の姿は無かった。便所に行っているのだろうか・・・?便所を覗いてみるが僕は居ない。吹き荒れる雪の中、雪だるまでも作っているのだろうか・・・?小屋の周りを見渡すが僕は居ない。遭難してしまったのだろうか・・・?30分程待ってみる。すると、ガチャリと戸が開き、冷たい風と踊り狂う細かな雪と共に、僕は小屋に現れた!両手には水の入った容器が大量に抱えられている。

「汲んできましたよ、水!」

そう僕は、水場で水を汲んでいたのである。

 

 水場は小屋から5分程斜面を下った所にあった。昨日の夕方に小屋に到着した時、雪はまだ降り積もっておらず、難なくその水場を見つけることが出来た。一本のホースからチョロチョロと音を出して湧き出ているのである。しかしこの日、ひざ下まで降り積もった雪が、水場もろとも地を覆い隠してしまったものだから、どこに水があるのか手で足で必死に雪をかいて探さねばならなかった。僕はケージーさん(東京都小平市に住む会社員)と共に、飯を探す野良犬の様に懸命に雪をかいた。ここだったかもしれない・・・そういって雪をかくも現れるのは、黒々とした岩。いやこっちだったかもしれない・・・そういってまたしても現れるのは、ゴツイ岩。いやこっちに違いない・・・そういってもやっぱり現れるのは、憎たらしい岩なのである。吹き荒れる雪が顔を打ち、靴の中に雪が入り、手がかじかんでくる。あぁ一体どこに水があるんだ!水など諦めて小屋に今すぐにでも逃げ込みたいが、水が切れた今、どうしても水が必要なのである。もういっそのこと雪を溶かして作りたかったが、限られた燃料を節約する為に水が必要であったのだ。僕とケージーさんは死に物狂いで雪をかいてかいてかきまくった。“努力はいつか報われる”そんな言葉を今までに何度も聞いたことがある。そして努力は報われた。ついに水場を掘り当てたのだ。辺りを見回すと、その場はまるで堀り荒らされた金鉱の様であった。ほんの小さな水場を探す為に、僕らは力の限りその何十倍もの面積を無茶苦茶に掘り返したのである。そうやって苦労した水を小屋に持ち帰り、コッフェルに入れてバーナーにかけた。

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冷え切った体を温めようとボーと激しく燃える炎を見つめる。コッフェルの底は燃える炎に炙られていた。しばらくしてふたを開けてみると、小さな泡粒がぷくぷくと底の方に出来始めていた。蓋を元に戻し、再び炎に目を戻す。炎はコッフェルの底に激しく燃えたかっている。直ぐに蓋の隙間から湯気が薄く立ちのってきた。我慢して蓋を開けずにしばらく待つ。湯気はパタパタと音をたてて蓋を揺らした。出来た!!僕はそう声をあげて、バーナーの火を消す。その瞬間に炎の音が消えてシンと辺りが静まり返る。カップの中にインスタントコーヒーをばらばらと入れた。コーヒーの薄い香りがほんのりと漂ってくる。湯をカップの中に注ぎ込むと、じゅうと音をたてた。先程とは比べ物にならぬほどの強いコーヒーの香りが一気に鼻をついてきた。唇をカップのふちに触れさせて傾ける。ズズッと音をたてて熱いコーヒーを少量口に流し込んだ。はぁ一息ついて、僕は思った。久末所長、どうもありがとうございます!!所長の大きな懐から生まれた4連休、越後三山縦走は叶わなかったけれど・・・このコーヒーはその無念を埋めるほどめちゃくちゃ美味しいです!!

ありがとうございます久末所長。