腐ったさつま芋とお盆休み
8月8日月曜日・・・
「今週の13日土曜日、ナマズ釣りに行こうぜ!」
友人から1通のLINEが来た。
僕は即答した。
「おーけー!行こうぜ!!」
それきり気持ちは高まり、僕の意識は夜の真っ暗な水のなかを悠々と泳ぐナマズへと向けられた。
そして日は流れ・・・
8月13日土曜日の夜10時半・・・
「釣れたぞ!」
その言葉と共に1枚の写真がLINEで送られてきた。
僕は布団の中で体を丸め呻きながら送られてきた写真をただただ眺めることし出来なかった・・・
そう僕は13日土曜日の早朝に体調を急激に悪くしナマズ釣りに行けなくなってしまったのだ。
39.9度という高熱、腹痛に下痢に吐き気に少しの鼻血、全身に襲いかかる疲労感、ダルサに寒気・・・
初めはインフルエンザかなと思ったのだがどうも今の時期にインフルエンザはおかしい。
ここ一週間のことをよく思い返してみると・・・ふと昨日の昼食に食った腐ったサツマイモのことを思い出した。
違いねぇ・・・間違いねぇあの腐ったさつま芋だ!!!
食中毒・・・それしか考えられなかった。
何故腐ったサツマイモなんか食べたんだ?と聞かれたのだが・・・それがその日の昼飯であり、少し位腐っていようがまぁ死にゃしねぇだろ!!という信念があったからだ。
まぁ確かに死にゃしなかった。
だが食中毒になってしまった。
(病院に行っていないため特定は出来ません)
僕の内臓の中で何万何千匹という黒い小さなバイ菌どもがばかでかいピッケルを振りかざしガッツンガッツンと炭鉱を掘るがごとく破壊の限りを尽くしているイメージが鮮明に浮かび上がった・・・
こうして僕はお盆の期間中ずっとバイ菌どもに苦しめられて布団の中でうめいていたのだ。
2日間断食を行い、3日目で熱が下がり4日目でようやく治ったのだが僕が寝込んでいたその数日間・・・
見えるのは全く動かないつまらない天井だけだった。
朝目覚めたときも、ぼんやり眺めているときも見えるのはいつも白い天井だけ。日が暮れるとその白みが黒くなる、その程度の変化しか起こらぬ。
寝ているだけでは勿体無い!なにかを考えよう!本を読もう!そう試みるも吐き気や腹痛が邪魔をしそれを許さなかった。
僕は何もせず、何も生み出さずただ苦しみひたすら横になるしかなかった。
この数日間、世界では何が起こっていたのだろうか。
僕の友人達はナマズ釣りや、登山、バーベキューなんかを楽しんだようた。
オリンピックでは選手1人1人がそれぞれの思いを胸に熱く競い合っていた。
それを熱狂的に観戦する人々。
内戦で苦しむ中東の人々。
海の沖合いでは網を投げて魚を捕ってる男達。
露店で退屈そうにボーとする人々。
僕と同じように腐った物を口にいれて苦しんでいる人々・・・
何十という国があり何十億という人が生きるこの地球には日々数えきれないほどのドラマが生まれる。
会社勤めをしている僕の今の状況では動ける範囲も見れるものもとても限られてはいるけれど・・・それでもその限られたなかで見れるものはある。
もしあの金曜日の昼、腐ったさつま芋をなんかを食べてさえいなければ僕は釣りにも行け山にも行けたのだ。
そこではその日その場所でしか見れなかったものが必ずあったはず。
腐ったさつま芋・・・
それを食ってしまったばかりに僕はその貴重なチャンスを逃してしまった。
苦しみの中、布団に横たわり目を見開くと視界には動かぬ天井が映るばかりであった。