飯をくれ!!
東北の旅も半ばを迎える頃、僕らは森の中を車で駆け抜けていた。
窓を開け放ち、葉の吐き出す新鮮な空気に酔いしれながら、のんびりと外の流れる景色を眺めていた。
(写真は窓が空いてないときです)
そんな時、ふと僕らの目がある不思議なものを捉えた。
立ち並ぶ木々の先に、水が流れ落ちているのが見えた。
滝だった。
それも普通の滝ではない。
滝の水がトンネルから流れ落ちていたのだ。
「あれは滝?トンネルから滝??」
初めて見るその不思議な滝に、僕らの6つの目は興味をそそられて思わず車を停めた。
その滝に誘われるように・・・引き付けられるように・・・僕らの足はその不思議な滝の元に向かって歩んでいった。
滝の近くにたどり着き、まじまじと滝を眺めた。
高さ3メート程の小さな滝は、言葉通りトンネルから流れ落ちていた。
暗い暗いトンネルの中を覗くと、数十メートル先に小さくて明るい出口が見えた。
一体この滝はだれが、何の為に作ったのだろうか・・・?
そんな疑問を抱いて眺めていたのだが、数分後には僕らはその滝にすっかりと飽きてしまった。
そうして車に戻ろうとした時だった・・・
一体どこに潜んでいたのか・・・一匹の猫が車の傍にちょこんと座っていた。
そいつは人懐っこく、毛むくじゃらの頭を僕らの足にスリスリとこすりつけてきた。
そのあまりの可愛さに僕らの心はトロリととろけてしまい、そいつに夢中になってしまった。
くのやろ!こいつめこいつめ!!と僕らは夢中になってそいつを撫でまわした。
顔をむぎゅっと押つぶし、わしゃわしゃと頭を撫でまわし、柔らかいお腹をぽよぽよと・・・容赦なくいじくり回した。
しばらくの間そいつは気持ちよさそうにしていた。
だがあまりにも僕らがしつこいので、
それが相当気に入らなかったのだろう・・・そいつは首を、体をグネグネと振り回し、撫でまわしてくる腕を払いのけて僕らの傍から離れていった。
そいつは少し歩いてから立ち止まり、振り返って首だけをこちらに向けてきた。
その顔にはこう書かれた。
「飯をくれやがれ!!」
その後そいつは向き直って、森の草むらの中へと姿を消していってしまった。
そいつは知っているのだろう。
その滝が珍しいことを。
そのトンネルから流れ落ちる滝が、人の目を引き、車からついつい降りてしまわずにはいられないことを。
人が降りるとみると、そいつは草むらからひょっこりと姿を現して愛嬌良く人に振る舞うのだ。
頭をすりすりとこすりつけ、ひと声ただ泣くだけでいい。
そうすることで今まで何度美味い飯にありつけたことだろうか・・・。
だが、あの3人は違った。
飯をくれるどころか、ひでぇくらいに撫でまわしてきやがった。
お陰で毛はボサボサだ・・・。
そいつは再び柔らかい草の上に丸くなり、目をつぶってスピースピーと鼻息を鳴らしながら眠り始めた。
そうしながら、そいつはただジッと待ち続けるのだ。
車が滝の前で停まるのを。
東北に森にいたある1匹の猫
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