医者が解き放った一言(続編② ~追撃~)
「20年後、人工透析になるわよ」
検査結果を見て、医者は僕の腎臓機能が年齢のわりに悪いと判断したのだ。
「もうその腎臓は良くならないんですか・・・?」
恐る恐る僕は尋ねた。
「ならないわ、腎臓は一旦悪くしたら決して元に戻らないの」
その言葉でもう十分だった。
その一言で、もう十分僕の心をズタボロに打ちのめしてくれた。
にもかかわらずだ・・・
医者は弱っている僕に容赦なく追撃の弾丸を放ってきた。
「まだ21歳でしょ?9かぁ・・・」医者は検査結果の紙を眺め、難しい顔をする。
まだ何かあるのか…とうんざりしながら僕は医者の口から出てくるであろう恐ろしい言葉を待った。
「尿酸値9かぁ・・・高いわねぇ。いつ痛風になってもおかしくない数値よ?これは」
(尿酸値とは血液中の尿酸の濃度であり、7を超えると高尿酸血症と判断される)
「はぁそうですか・・・痛風?ですか?」僕は何のことやら分からず・・・ただ静かに呟いた。
「まぁでもまだ若いからね、でもこのままじゃあなた25歳には起こしちゃうわよ?痛風を」
「痛風・・・痛風ですか・・・?そうですか…」僕は良く分かっていなかった。
痛風という言葉はどこかで耳にしたことはある。
しかしそれが一体どんな病気なのか・・・どんな症状が出るものなのか・・・僕は全く知らなかった。
痛風・・・そんなものは僕の人生には一生関わりの無いものだと思い、それに対して特に興味関心を示さず、記憶にしまい込むことをしなかったのだろう。
「痛風は激痛よ激痛!!関節が腫れあがり、あまりの痛みで歩けなくなるわ」
医者は痛風とは一体どんな病気なのか、知らない僕に簡単に説明してくれた。
その説明を聞きながら、その痛風とやら一体どんなものなのかを知るに従い、僕はどんどん恐ろしくなっていった。
医者は痛風がいかに痛くて辛いかを至極明確に僕に解説してくるのであった。
20年後には人工透析、4年後には痛風・・・冗談じゃねえや、なんてこった!
「痛風も人工透析も絶対に嫌です‼まだやりたことが一杯あるんです!」僕はすがる思いで先生に尋ねた。「どうにかならないんですか?」
「まぁあなたはまだ若いからね!大丈夫よ、しっかり治療していけば痛風にも、腎臓をこれ以上痛めなければ人工透析にもならないわ」
その言葉を聞き、黒雲の立ち込めていた心に一筋の光が差し込んだ。
「まずは尿酸値を下げないと。尿酸値は薬で下げることが出来るけれど、薬を一回飲んだら以後ずっと飲み続けなければならないわ。まだ若いからそれはあまりお勧めできない。薬に頼らずにまずは生活習慣を変えて治すことをおすすめするわ」医者は言った。
「それが出来るのならばそうします!」
「じゃあまずは食生活ね、タンパク質は腎臓を傷めつけるから、もう肉はあまり食べちゃだめよ?卵も牛乳も魚も・・・控えないとだめ。食べても1日卵1個分位かな。その代り野菜を多く食べなさい。お酒も尿酸値を上げるから控えなさいね。激しい運動もだめ。それから水を沢山飲むこと、脱水症状には気をつけることよ?」
肉を食べられないこと。それは毎日毎日肉や魚をガツガツ食べていた僕にとって非常に辛い事であった・・・
激しい運動をしてはならない。それも非情に辛い事であった。その頃、いや昔から何かに憑りつかれたように筋トレに励んでいた僕にとって、筋トレはもはや生活の一部となっていた。その筋トレを奪われることは体の一部を無くすようなものであった・・・
(酒を控えることに関しちゃ、酒に弱くてあまり好きではなく、自ら進んで飲むことはなかった。なので別に何の被害もなかった)
でも、肉も魚も・・・卵も牛乳も!そして筋トレも!!それら大好きなものを全て捨てなければならない。
僕は意を決し、医者の言いつけ通り、生活習慣を改めることにしたのだった。
PS
つづく
ジャックロンドンが呼んでいる。その呼び声を無視することは出来ない。
これ以上もう書けない…ので今日はここで終わります!