旅する蜂ブログ

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母なる地球を、自然を愛する!!

日光旅、栃木県の集落を訪れて

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  短かった。実に短い旅だった。しかしこの旅は、この上なき良い出会いにそして深い感銘を受けた旅でもあった。その地を離れる時に感じた悲しみは、今までにあまりない程の大きさであった。残酷な鉄の塊は感傷に沈む僕を物凄い速さでその地から運び去った。一瞬にして名残惜しい景色を後方へすっ飛ばし、僕は固い椅子に座りながら東京へ帰って行った。

 

 

 

10月15日土曜日だった。会社の会議室では売上報告や様々な連絡事項が飛び交っていた。ああぁ何故土曜日にこんなことを・・・とそれらの情報を受け取って苦しむ気持ちとは反対に、数時間後の事を想像して踊って弾む気持ちが僕の胸の中で燃え上がっていた。その炎は会議の時間が終わりに近づくにつれて強さを増していった。会議が終わると僕は下北沢駅へすっ飛んだ。小田急線で代々木上原駅へ行き、そこで千代田線に乗り換えて約1時間、ようやく北千住駅へたどり着いた。時計の針は14時を過ぎている。そこで最後の電車、東武スカイツリーラインに乗った。3時間にも及ぶ長い長い電車旅が始まった。

向かう先は栃木県日光市中三依温泉だ。そこは150年程前に勃発した武士と政府との戦争・戊辰戦争時、会津軍により村々を徹底的に焼き払われた地である。数日前に僕の師匠から「中三依温泉でBBQと周囲の散策をするんだ!凄い良い所だから、時間があったら是非来てくれ」と熱烈な誘いを受けたのだ。

窓の外を流れていた鉄筋コンクリート共の姿が直ぐに住宅にとって変わった。しばらく走る内に住宅の姿も薄くなり、代わりに山に田園風景が多く目につくようになっていった。日が落ちてゆくにつれて外の景色が暗闇に段々飲み込まれ、間もなく完全に外が暗闇に包まれた。駅に停車するごとに人が1人、また1人と人が消えてゆき、もともと空いていた車内にはとうとう僕しか居なくなってしまった。すると眼鏡をかけ、かっちり身を整え見るからに真面目そうな車掌さんがやって来て、椅子に座る僕に尋ねてきた。

「すみません。精算です。どこまでいくんですか?」

僕は読んでいた本を閉じて立ちあがり、答えた。

「さんい温泉です」

「えー・・さんい?さんい温泉?ですか・・・?」

車掌さんは首を傾げながら尋ねてきた。

「はい、さんい温泉です」

それに対して自信満々に答える僕。

「漢字はどういう漢字ですかね?」

「漢数字のさん(三)に、依存のい(依)で、さんい温泉です」

「“みより”です、それは“みより”!みより温泉と読みます」

小学生の頃、勉強が嫌で嫌で仕方が無く、漢字の勉強をことごとく怠ったが為に今になってそのつけが来ていた。

「それで上三依温泉と中三依温泉の2つがあるんですが、どちらで降りられますか?」

「あ、みよりと読むんですか!さんいだとずっと思ってました!!で、えっと・・・たしか中三依温泉だったかな・・・」

自信の無さそうに僕が答えると、車掌さんが再度尋ねてきた。

「駅を降りた後はどちらへ行かれるんですか?もしかしたら聞けば分かるかもしれません」

「おとこじか温泉ですよ!おとこじか温泉!知ってますか?」

「おとこじかではなく、おじか(男鹿)の湯です!そこなら中三依温泉で大丈夫ですね!では730円になります」

東武株主優待券の差額分を受け取ると車掌さんは、電車の揺れに体をふらつかせながら歩き去っていった。 まもなく駅へ到着した。他には降りる人は誰も居なく、電車が去った後、僕は狭く小さな駅にポツリと1人取り残された。駅員も改札もない、無人駅だった。駅を出ると街灯の無い、周囲を山々に囲まれた暗い暗い世界が広がっていた。近くに聳える山の稜線の直ぐ上に月が顔を出していた。その月光がほんの僅か暗い世界を照らしている。初めて踏む地であり右も左も何も分からない。古びた民家が幾つかあるけれど、どこの窓からも電気が漏れていない。誰も居ないのだろうか・・・

そんな中駅を出てすぐの所に男鹿の湯と書かれた白い看板が月光に照らされているのを見つけた。看板に沿って狭く暗い夜道を歩いて行く。脇道の繁った草やぶから沢のチョロチョロと水の流れる音だけが聞こえてくる。左側に数件の古い民家、右には畑が広がっているのが暗闇の中でも何とか見てとれた。そのすぐ後ろには真っ暗な森が広がっている。しばらく歩くと、前方にぼんやりと明かりが見え、近づくにつれて無数の人の話し声が聞こえてきた。男鹿の湯にたどり着いたのだ。それは東京から四時間後のことだった。仲間達はもう既に酒を飲んで、楽し気に笑い合っていた。既に出来上がっている焚火の傍に近寄り、静かに顔おを近づけてゆらゆらと燃える炎を眺める。その炎を眺めてホッとし、そして思った。

「今日も一日終わりか、そして帰るのはもう明日か・・・。なんてはえぇんだ」と。

来て早々、もう東京へ帰ることへの憂鬱さが頭を掠めた。

しかしこれから始まるのである。濃い旅の数時間が・・・・

 

明日か明後日か、し明後日か・・・つづく