1枚1円の名刺
雑誌の編集者と打ち合わせを行うにあたり、直前で僕は大事なことを思い出した。
名刺が無い・・・
会社を退職して世を徘徊するハイエナ・・・いわゆるフリーになったはいいが、まだ名刺を用意していなかったのだ。
何とかして早く作らなければ!!そう焦って今頃急いで外注した所でもう間に合わない。
こうなったら自分自身でこしらえるしかない。
僕は飛び上がって家の中をガサゴソ引っ掻き回し、何か使えそうなものは無いかと血眼になって探した。
幼い頃に毎日毎日草むらに入って昆虫採集をしていた僕は、昆虫を探す目が鍛えられていたのかもしれない。ものの数分でいいものを発見した。
モンベルの紙袋である(昆虫ではなかったが)
丁度よい固さに、しなり具合、色も野生ぽくて、見た途端これにしようと即決した。
そういう訳で急遽僕は肩書をとりあえずはフリーライターにし、名刺作りをした。
ほんの一時間前のことである。
手順は以下の通りだ。
①慌てふためきながら、ワードで名刺のテンプレートを作る
②コンビニへ駆け込んで、A4サイズの普通用紙で印刷する
③手をベタベタと汚しながら、糊で紙袋に張りつける
④指をちょん切らぬよう慎重に、切る
(総計は10円(白黒プリント代一枚分)だ)
いらぬ言葉を加えたことで、一見複雑そうに見えるのだが・・・
実際は実に単純で簡単なものであった。しかも1枚あたり、1円というなんともお財布に優しい値段なのである。
ただ、一枚作るのに時間がかかるのが難点ではあるのだが。
作っている最中、受け取った人の事を考えると嫌でも丁寧になり、少しの緊張感が帯てきて、それがなんだか楽しかった。
営業時代は会社に頼めばいくらでも簡単に何枚でも名刺が手に入り、一枚の名刺の重みなど微塵も感じなく、あげなくてもよい人にまでやたらめったらバカみたくばらまいていた。(元上司の皆さん、これ見た時には怒ると思いますが・・・、ごめんなさい)
だけど今はそんなことは決してできない。
自分で時間をかけて作ると気がついた。
名刺一枚にしても、丁寧に一枚一枚作るとこんなにも情が移るのか・・・と。
一枚の重みがあの頃と比べ数十倍にも増していた。
気がつくのが遅過ぎである。
これは名刺に限った事でないであろう。
これから日々生きながら考えて、もっともっと面白い名刺を作っていこうと思う。
版画の名刺もなんか面白いかもしない!
自ら文明に逆らって、これからは時間がいくら掛かろうと、どんどん時代を逆行して行こう!!!!