ユーコン川3週間目、ドーソンへ到着
3週間ぶりに携帯を開いた。小さな画面は、今まで常に回りに解き放っていた僕の感覚を瞬時に吸い込んでいく。全くこの機械は恐ろしいものである。ようやく抜けきったものの、早くも僕は現代器機の毒に蝕まれてゆく。
5月24日の昼過ぎ、僕はユーコン川下りの出発地点であるテズリン川のジョンソンズクロッシッングにて、カヌーに荷物を積んでいた。すると、まん丸と太ったおやじが何処ともなく現れた。
「そのカヌーで何処まで行くんだ?ドーソンか?(ユーコン川の中流の街)」 「いや、ベーリング海まで行く予定なんだ」 話しながら僕は荷物を整理していった。間もなく荷物を積み終え、僕はおやじに別れを告げて岸をゆっくりと離れていった。するとおやじが叫んだ。 「ちょっとまて!どこへ行く!?」 「どこって、海だけど?」 「逆だ!逆!!方向はそっちじゃない!」 僕は地図とコンパスを照らし合わせ、方向を確認した。間違いなかった。向かっている方向は川の下流で間違いなかった。おやじはしきりに手を振って叫んでいる。僕は岸にカヌーを戻し、降りておやじの元へ歩みよって地図とコンパスを見せた。 「いや、ほら見て、僕が向かってた方向で間違いないよ!」 コンパスを訝しげにいじくり回し、そして言った。 「これ、壊れてるんじゃないのか?」 川の水の流れを見れば一目で分かるのだが、流れはゆったりとしすぎて川はまるで湖のように静まり返っていた。おやじはとにかく真剣な顔で逆だと言い張る。その表情は自信と確信に満ち溢れている。僕は何だか自信がなくなってきた。 僕は再びカヌーに乗り込み、さっきとは逆の、おやじが指し示す方向へ漕いでいった。岸から離れ、川の中央へ進んでゆく。おやじの丸まっちい姿はどんどん小さくなっていった。僕は漕いだ。静かな水面を漕いでいった。すると左手に崖のあることに気がついた。地図で確認すると、崖は今見ている方向と逆の右手に書かれている。やはり僕は合っていたのだ。今まさに逆に進んでいるのだ。岸を見るとおやじの姿はもうどこにもなかった。カヌーを回転させ向きを変え、僕は漕いでいった。
こうして5月24日、僕のユーコン川の川旅が始まったのである! それから3週間程かけて800キロ位川を下り、今日6月14日、ユーコン川中流、ゴールドラッシュで栄えた街ドーソンへと到着。人は言う、「ここはパーティーシティだ!!」と。 ここまでの3週間、ずっと自然のなかで過ごし、動物や虫、草木と戯れ、本当に色んなことがあった! ※詳しくは本で書くつもりなのでここでは省きます。 ドーソンで2・3日休んで再び出発だ!
カヌーと僕
おやじに撮って貰った記念の一枚
美しい初の魚、グレイリング
全て採集し調理した食事。グレイリングの丸焼き、ワイルドオニオンの塩炒め、スプルースの茶。この地を旅する僕にとってこれ以上ない食事である!
恐ろし程の寛ぎ様、あまりにも寛ぐので、追い抜く人が写真を撮っていった。
濁った本流の水、透き通った貴重な沢の水!沢を探すのは日々の仕事
朽ち果てた丸太小屋。一軒一軒見るごとに僕の中で、丸太小屋を自分で作ろうという決意が固まってくる。
森すら眠っている早朝の船出はこの上なく清々しい!
雨の日もまた美しい。
のんびりと釣り。ここでは釣れなかった。
ムース!!
風の強い日はカヌーにとって最悪の日。洗濯と読書には最高の日!
まだ雪が残っていた支流。
朝昼夕と欠かさず行う水浴びは僕を魚のようにする
美しい朝日
初日の野宿