旅する蜂ブログ

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自然を愛する男の日記 現在、カナダ・アラスカのユーコンの荒野で生きている!

ユーコン川・荒野の旅 ~ビーバー村~

太陽は陽射しを強めながらゆっくりと上昇し、テントを照らしていった。テント内はぐんぐん気温が上昇し、たまらず僕は目覚めた。体がうっすらと汗ばんでいた。僕はそんな汗と、しつこくまとわりつく眠気と共に急な砂地の斜面を降りて川岸に向かった。それはビーバー村で迎えた3度目の朝だった。
僕はいつものように素っ裸になり川に入っていった。灰色に濁った川の表面は、そよ風に吹かれて小さな波が生じ朝陽でキラキラと照り輝いていた。水は冷たく、眠気と汗とを一瞬で洗い去ってくれた。水中から水面に顔を出すときの爽快感がたまらない。僕は何度も何度も水に潜っては魚のように水面に顔を出した。水浴を終え、岸にあがって服を着ている時だった。すぐ近くの川岸に留められている小さなボートから声がかかった。
「おはよ!一緒にコーヒーでもどお?」ボートの部屋の中から女性が顔を出している。彼女の名前はミニー。ミニー・トーマス。グッチンインディアンで、ユーコン川のレンジャーだ。彼女は昨日この村に来て、滞在していた。
僕はボードに上がった。暖かい淹れたてのコーヒーが入ったボロボロの紙コップを手渡され、ボートの縁に腰かけた。静かな朝だった。世界は止まっているかのようだった。「水浴び見ちゃったわよ。アダムズ家のシャワーは借りないの?」ミニーが言った。
「借りないよ、シャワーよりも川の方が断然気持ちいいんだ」
コップから1滴のコーヒーが滴り落ちて、右膝のスボンの布に小さな丸い染みが生じた。コップを上げて下から覗くと、底にほんの小さな穴が空いていた。そこからじんわりゆっくりとコーヒーが漏れている。やがて、もう1人、男がボートにやって来た。ジム、彼もまたレンジャーで、デナリ国立公園のレンジャーだ。ジムはコーヒーを受けとると船の縁に腰かけた。視界を遮るものは無く、天上に広がる青空、木々が連なった岸、静かに広々と流れる大河、それら全てが繋がっていた。草が繁った斜面の上には古びた鮭のスモーク小屋があり、近くにアダムズ家の大きな丸太小屋が凛として建っている。岸に繋げられたボートの下の水は穏やかだった。弱々しい風が時たま吹いてきて、岸辺の木の葉がそっと揺れる。僕らはボートの上で、コーヒーを飲みながら、静かな時を過ごした。それはゆっくりとした心地よい時間だった。何事にも追われること無く、全身で感じる陽の暖かみ、身をつつむ静けさ、コーヒーの苦味、時々生じる小さな会話を楽しんだ。他に何も欲しいものはなく、何も必要としなかった。それほどまでにアダムズ家の前の岸辺は、とても居心地の良い空間であった。気がつけば三時間以上も時が過ぎていた。

2011年。アイさんはこのビーバー村へ来て、クリフ・アダムズさんと結婚した。この居心地の良い空間こそ、クリフさんとその孫達と共に作り上げてきたものであった。
僕は数ヵ月前に2ヶ月ほど東北を旅し、多くの家を見て回った。そしてユーコンに来て、かつて人が生活をした古びた丸太小屋をいくつも見てきた。家や小屋、それを取り巻く周囲の環境、それらの中に足を踏み入れた時に感じる感覚が様々であることに、旅をしていた僕は気がついた。嫌な空気を感じるときもあれば、ホッとする時、重みを感じるとき・・・それぞれの空間はどれもこれも違っていた。それこそが人がそこで生活し、そこに住む人々が作り上げた空間であった。
一昔、アラスカの北の海岸地帯・ポイントバローで飢餓と疫病に苦しむイヌイットを引き連れ、ブルックス山脈を越えて内陸部に位置するここインディアンのにやって来たフランク安田さん。フランク安田さんが今あるこのビーバー村を、インディアンとイヌイット達と作り上げた。そして幾つもの世代を経て、それはアイさんとクリフさんに引き継がれてゆき、作った空間。この空間は重く深く、とても心地よかった。

日がオレンジ色の光を世界に散らしながら森の影に沈んだ深夜。アダムズ家の前の、美しく輝く静かな川で、クリフさんの2人の孫、イヌイットやインディアンの子供達と共に川で泳いだ。はしゃぎ、とびきりの笑い声が響き渡った。彼らと共に過ごしたこの楽しい時がまた、アイさんとクリフさんが作り上げた心地よい空間を、さらに良いものとしていった。

僕も自分の住む家を作り、いつか共に生きる人を見つけ、誰が来てもどんな生き物が訪れても居心地が良いと感じる、とびきりの安心感を与える空間を作っていこう!

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