旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

ユーコン川・荒野の旅 ~旅の終わり~

 ユーコン川を下り、国境を越えてアラスカへ入る時にやらなければならないことがある。入国審査である。

 カナダとアラスカの国境といっても、川岸の草むらに、棒に付いている小さなユーコンの国旗がぱたぱたと揺れているだけだった。アラスカとの国境とはどんなところなのか・・・ずいぶんと気になっていたのだが、その簡素さに拍子抜けし、僕は写真を撮る気も起らず、特に気にも留めず、国境と思われるところを通り過ぎて行った。あっ、いまアラスカに入ったんだ・・・と。あれほど憧れていたのに、骨を焦がすほどアラスカの地に憧れていたにもかかわらず、いざ入ってみるとなんというあっけなかったことか。

 今となって記憶を探り、日記を見直しながらこれを書いているのだが、果たして立っていたのはユーコンの国旗だったのだろうか・・・なんとも自信が無くなってくる。なんだかアメリカの国旗だったような気もする。そう思うとカナダの国旗だった気もしてくる。でも思い出そうとしても無駄なこと。とにかく日記には「ユーコンの旗がハタハタと揺れていた」とあるので、その時の僕を信じることにしよう。国境にはユーコンの旗が一本揺れていた。

 

 入国審査は、アラスカに入って最初に現れる小さな小さな村、イーグルヴィレッジにて行う。と言ってもその小さな村に入国審査官がいるわけではない。入国審査室(おそらくアンカレッジの空港)へと繋がる電話が村に取り付けられており、それで自己申告をするのである。

 村に着いた僕は早速電話した。

「あの、僕はユーマと言いまして、今カヌーでユーコン川を下ってるんです。6月20日にアラスカに入りました」そこから何処から来たのか、どこまで行くのか、いつ出るのか、パスポートナンバーやらを聞かれる。そして審査官はこう言った。

「じゃあ、あなたのビザは3か月有効だから、そうね、9月の終わりごろまでにアラスカを出てくださいね。出る時はアンカレッジ空港の入国審査室に来るように」

 9月の終わりまで・・・日にちなんてそんなものでいいんだ。なんて大雑把なんだ。ゆるい、これがアラスカなのか・・・と僕は思った。じゃあ9月の終わりごろまでにアラスカを出ればいいか、と。

 

 アラスカのマーシャルヴィレッジで長く滞在している僕は、9月の半ば、ふとなにか物凄い嫌な予感がした。9月の終わりごろって言ってたけど、それは一体いつなんだろうか・・・と当たり前の疑問がその時になってようやく現れた。なんか今すぐ帰らないとダメな気がする!!そんな思いに駆られた。

 福島県の奥会津の山奥の小さな部落の古民家に、老沼さんという師匠(僕が勝手にそう思っている)が静かに住んでいるいるのだが、その師匠は、そのなんとも言えない胸騒ぎを”虫の知らせ” と、そう呼んでいる。僕はまさに虫の知らせを覚え、早急にアンカレッジまでの飛行機の手配をし、今にも墜落しそうなおんぼろセスナに飛び乗って、マーシャル村を発った。9月15日の事だった。

 (僕のユーコン川の旅はこうして終わった)

  べセルという町を経由して、アンカレッジに着いたのは16日の事だった。久しぶりに見るコンクリートの地面、込み合う人の多さ、走り回る車・・・・文明という牙に打ちのめされながらも僕は、早速入国審査室を探した。しかしどこにあるのやら。空港で働く人々に聞いても、さっぱりわからないという。そんなことがあり得るのかと思って何人もの人に聞くも、答えは一緒だった。そしてなんとかこぎ着けたそれらしい答え、「お客様相談室のことかな?」そう言って掃除のおばちゃんがそのお客様相談室とやらへの行き方を教えてくれた。行ってみた。開いてなかった。土日は休みだという。2日後の18日月曜日になったら開くそうだ。

 僕は気持ちを切り替えた。そしてアンカレッジに住む友人・キリスト教の牧師さん(ちなみに僕は無宗教)に電話した。牧師さんと僕はアンビック村で偶然知り合い、「アンカレッジに来た時には是非おいで」と言われていたのだ。

 牧師さんの義理の娘さん・カズエさんは、日本の沖縄から結婚して移住してきた方だった。

 僕はアンカレッジの中心地の住宅街にあるカズエさんのお宅に連れていかれた。ここに寝泊まりすればいいと。お互い全く知らずに出会った、僕とカズエさん。なにがなんだか分からずにとりあえず握手し挨拶した。カズエさんと数か月ぶりの日本語を話した。もうめちゃくちゃな日本語が、僕の口から飛び散った。こんなに日本語が下手になったのは初めての事だった。

 「これは何ですか?」キッチンの大きなざるに広げたあった真っ黒のニンニクがまず僕の目に入った。

「それは黒ニンニクよ!黒ニンニク!毎日食べてるの、作るのよ炊飯器でね!」そう言って、くれた黒ニンニク、チョコレートの10倍濃かった。

「これはガイアの水っていうの、波動が違うのよ波動が」フィルターが特別だというポットの水を入れてくれた。波動・・・

 カズエさんは発酵に物凄く凝っていた。もうキッチンはまるで魔女の実験所みたいだった。

黒ニンニク、EM、玉ねぎとニンニクとリンゴ酢で3週間かけて作ったという超濃厚エキス、ヨーグルト・・・他にも掘れば掘るだけ色んな所から出てくる発酵食品。話を聞けば聞くほど、発酵って興味深いなぁと、僕はどんどん発酵のその深みにはまっていぅった。僕は発酵に、生まれて初めてここまで興味を抱いた。カズエさんのこのお宅に来なければ、ここまで発酵について興味を抱くことはなかったろう。これから発酵もやっていこうと思う。

 

  発酵とは逆にカズエさんはアウトドアに全く無縁の方だった。僕のこれまでの旅の話を興味津々に聞いてくれる。原始人の様な僕が来なければ、アウトドアへの関心は抱かなかったそうだ。

 

 

 話は戻るが、アンカレッジに着いて空港内に居た僕は空いた時間の暇つぶしに、町とその周囲の地図をざっと見た。ふと目が、ある名前に止まった。

”イーグルリバー”

 アンカレッジ郊外に位置する川であった。なんというか、名前の響きが僕の心を瞬時に捉えてしまった。聞くとトレッキングも出来るそうで、もし可能であれば、他は行けなくてもいいけど、ここだけは是非行ってみたいな・・・と心の中で思った。

 そして空港を出、カズエさんご夫婦と会った時に、ご夫婦が僕に言った。

「今日か明日イーグルリバーに行くんだけど、いいかな?」

 僕は即答した。「はい!!!!勿論!!!!」顔はめちゃくちゃ輝いていたと思う。

 なんでも1週間前、カズエさんはスマートフォンの使い方講座に行ってきたそうで、写真の機能の段になった時に、絶好の被写体がイーグルリバーにはある、と講師の人に言われたのだそうだ。それで今週そのイーグルリバーに行くことになったそうだ。

 この時、”巡り合わせ”というものを僕は強く感じた。

 また、カズエさんはその講習でカメラに興味を抱いたらしく、カメラをもう少し知りたいと思ったそうだ。そこへカメラを持った僕が、荒野の奥底から、何処からともなく現れたのだ。巡り合わせだ。全ては巡り合わせ。

 

 紅葉に染まった森に、氷河を抱く壮大な山々を眺めながら車を走らせる。しばらくして僕達はイーグルリバー・ネイチャーセンターに到着した。ここを起点にトレイルを歩くことが出来る。

 僕はサンダルを脱ぎ、白樺の森の中へと続くトレイルを、時間もペースも距離も何も気にせず、何もかも置き去りにし、1人歩き始めた(ご夫婦は僕を置いて一旦帰宅、夕方ごろ再び来てくれた)。持ち物はカメラと水とベアスプレーだけだった。食料は無し。

 地面は腐葉土でふかふかだ。黄色い紅葉の葉が地面に一面に敷き詰められている。豊富にある赤く熟したバラの実やクランベリーを摘まみながら犬の様にふらふらと道草を食い、歩くこと3時間ほど。森を抜けて、眼前に涼しい音をたてて流れる川が現れた。氷河が作り出す清涼なイーグルリバーだ。僕は川岸に腰を下ろして暫くその場を取り巻く自然を思い切り吸った。地球は神聖で、とても美しかった。

 生活道具全てをカヌーに詰め込んで、数か月の川下りは、素晴らしい体験を僕に与えてくれた。そしてトレッキングもまたいいな・・・!!!と改めて思った。

 

 月曜日、空港へ行って入国審査室へ行った。そこでこう言われた。

「あなた、今日の12時までにアラスカを出ないともうここへ来れなくなるわよ・・・12時を越したら不法滞在よ不法滞在・・・。アラスカに入ってから今日がその丁度90日なのよ・・・飛行機のチケットを早くとって出た方が良いわ!!!それに一日1本しか便はないわ、席も空いてるか分からない。早く行きなさい!!!!!」

それを聞いてカズエさんと僕は縮み上がった。もう僕は腹を括った。もしこれで不法滞在扱いになったらアラスカに拒否されているということだ、これ以降もう一生アラスカには戻らないようにしよう、と。でももしアラスカを無事出ることが出来たならば、その時はいつの日かまた戻ってこよう、と。

 ヒッチハイクでのんびりカナダに帰ろうと思っていたのだが、その計画などもう実行不可能。僕は急いでバカ高いチケットを買い、カナダへと帰っていった。

 

ユーコンへ長期間行こうと考えている方へ!

 アメリカのEstaという観光ビザで滞在できるのは3か月ではなくて「90日」です!!それと月によって29日とか31日とか凸凹しているので、入った日から90日後をカレンダーをしっかり見て正確に計算してください!僕の様にがさつにやるとえらい目にあいます。でも時間の流れを感じさせない荒野の大自然にいると、そういうこともなんかどうでもよくなってしまうのも事実。もし行く人が居れば、十分気を付けてくださいね!

 

 何だかパッとしない終わり方だが、ユーコン川の旅ブログは終わりにします♪

これを読んで、一人でも多くの方が今以上に自然に興味を抱き、地球について考え、触れる機会が増えれば、僕は幸せです!

また今回の旅の体験を元に現在本を執筆しており、これから自費出版します!

内容は地球からのメッセージです。

出来ましたらここで連絡いたします。

また今回の旅において、応援してくださった”株式会社モンベル”さん、本当にありがとうございました。

これまで出会った全ての人、人に限らず全てのものに感謝いたします!!!!

どうもありがとうございました!

これ以降のカナダのヒッチハイクの旅や湖の湖畔の丸太小屋での1週間の滞在記など、もし気が向いたら書きます。

では!!

 

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イーグルリバー

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裸足が一番いい!!

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