旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

朽ちた老木

近くの畑に、朽ち果てた1本の桐の老木が佇んでいた。
曲がりくねり、半分以上皮が剥がれ落ちている幹にはキツツキや虫食いの穴が幾つも空いていた。
蜜蜂の精にとり憑かれたように無我夢中で巣作りに没頭する僕に、隣のお爺さんがその老木を譲ってくれた。
 
真っ青な空の下の、真っ白い雪原に1本だけ立つ老木。
この地に佇み、賑やかな人々の繁栄と共に背を伸ばし、少しずつ衰退していった人々の暮らしを、この老木は年輪を一本ずつ刻みながらどんな思いで見つめてきたのだろうか。
村の衰退と共に木も朽ちていったのだろう。
そんな木に祈りを捧げて、チェーンソーの刃を根元に当てた。
木屑を巻き上げて刃は老いた体にスーと食い込んでゆく。
やがてメリメリと音をたて、雪の上に倒れた。

何十年と動かずに大地に根を張り、この地を支えてきた命。
その重みをこぼさぬ様に、僅かな無駄も出さぬように、どこを切るべきか見定めて慎重に玉切りにしてゆく。
神経は剃刀の様に鋭くなり、僕の世界から不要なものは一切消え去った。
老木と僕、世界はたったのこの2つだけであった。
それはお金では決して買うことのできない神聖な時間だった。

皮の間や小さな穴から、亀虫や蜘蛛が這い出してきた。
何十年もこの地を養ってきた木は、朽ちてなお多くの命を支えていた。
シワだらけのその姿は美しかった。
老いてさらに美しくなる命だった。
朽ちていたが、木はまだ死んでいなかった。
木の中は空洞になっていた
腐り、虫に食われ、気の遠くなる時間が作り上げた空洞だ。
自然が作り上げる、それはまさに芸術だった。

中はどうなっているんだろう?
覗くと奥の方で小さなものが動いた。
野ネズミだった。
奥の隅に、小さな野ネズミが身を強ばらせていた。
暗い木の中から、黒く小さな瞳がじっとこちらを見つめている。
それは木の小さな住人だった。
秋の間に蓄えたのだろう木の実が幾つかあった。
暗く静かな木の中で、野ネズミは一体どんな日々を過ごしてきたのだろうか。
やっちまった・・・・悔いが心に冷たく突き刺さる。
彼のかけがえのない住みかを僕は壊し、奪ったのだ。
これから僕がやらなければならないことは、家をあけわたして良かったと思ってくれるように、彼の犠牲以上に、地球の為に仕事をすることだ!
やる気に、情熱が魂が燃え上がった。
小さなネズミがその何十倍も大きな僕に、莫大なエネルギーを与えてくれた。
多くの命を背負って生きてきた老木。
その命を無駄しない。
その命を使い、もっともっと輝かせてあげよう!!
切り終えると、日はいつの間にか山の影に隠れていた。
f:id:Yu-Ma:20180411130428j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130447j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130511j:plain
何十年と生きた老木。其処にすむ小さな住人。
f:id:Yu-Ma:20180411130624j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130640j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130658j:plain
惚れ惚れする丸太達
f:id:Yu-Ma:20180411130732j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130750j:plain
端材も全て無駄なく使う
f:id:Yu-Ma:20180411130821j:plain
f:id:Yu-Ma:20180411130902j:plain