南国物語
25歳の僕が最年少であった。
そこから30代、40代、50代、60代、そして75歳の長老と実に幅広い年齢層を成す怪しい集団が、巨大なザックを背負い、沖縄の離島・西表島の地に降り立った。
暑い夏の日差しが降り注ぐ4月の終わりのことだった。
そこは静かな浜辺だった。
植物がうねり、這い、鬱蒼と生い茂るジャングル。
何処までも広がる大海原。
それらに阻まれ、道の無い、普通、人の入れない浜辺であった。
潮の満ち引きに合わせて、干潮を狙って僕らはその地から、島の海岸沿いを泳ぎ歩き、時に流れていった。
1日の終わりに砂地にタープを張り、流木を拾い集めて火を起こし、捕った貝やエビ、魚を料理し、食し、新鮮な生きた海を自分の命に取り込んでいった。
澄んだ海に泳ぎ出た。
リーフが突然切れ、絶壁が現れた。
そこからは底の見えない深海が広がっていた。
僕の小さな体など比べ物にならない地球の壮大さに打たれ、恐怖、畏怖の念に包まれた。
海の中は地上とは別世界、神秘そのものであった。
満月がジャングルの影からのぼり、やがて凪いだリーフの海面を月明かりが照らしだす。
ぼんやりと明るい世界に包まれた。
どこからともなくフクロウの鳴き声が鳴こえてきた。
横たわると耳元からカチカチと小さな音がそこらじゅうから聞こえてくる。
ヤドカリだった。
小さなヤドカリの群が珊瑚の残骸の上を歩いていたのだ。
茂みの中で、蛍の灯が灯った。
夜が更けるにつれてジャングルの音は多彩を増していった。
シャワー等無い。
塩を落とさないことに初日は少し抵抗感があったものの直ぐに馴れた。
塩にまみれたまま、心地よい焚き火の温もりで眠りにつく。
耳を地に付けると地中からガリガリと音が聞こえてきた。
カニか何か生き物が真っ暗い地のなかで生きているのだろう。
エッエッエッエッ!!と時に突然得体の知れない鳴き声に叩き起こされ、寝ぼけたまま辺りを見渡すが見えるのはただジャングルの暗闇。
不思議な世界、それは神秘的な一夜の連続だった。
海と大地の音、あたりを包み込む世界を五感で感じとり、魂が洗われ、皆が皆、野生、本来の自分を取り戻していった。
年の差も越えて語り合い、朝から晩まで笑いあった仲間達と共に過ごした日々、それらは生涯忘れることなく、深く刻み込まれる、一生ものの体験だった。
世界は広がり、夢がまた枝を伸ばした。
南の空気に存分に浸かり、心身共に緩みきった頃、西表島の旅が終わった。
そしてこれからまた始まるのは、南とは対象の北の地、会津の森の生活だ!