旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

蜜蜂のささやき

夏の間、雨が全く降らず、畑も森も山も乾き果てていたここ奥会津では連日、雨が続いています。
空が今までの分の埋め合わせをするかの様に。
しとしと、しとしと・・・瑞々しい音を奏でながら、雨は乾いた大地を一滴一滴潤しています。
畑に行こうと戸を開け、雨が降っていると、外に出ようとしていた足が一瞬躊躇してしまいます。
そんな雨の中でも、蜜蜂達は今日も巣を飛び立ち、雨粒に打たれながら花々の蜜を一生懸命に集めています。
僕ら人間と比べ、遙かに小さな蜜蜂達にとって、雨粒は大変大きなものです。
空から散弾の様に降り注ぎ、一粒一粒が勢いよく蜜蜂達の羽を、頭を、小さな体を打ちつけてきます。
巣の為、幼虫の為、他の蜂達の為に、自分達の生命が途絶えないように、そんな過酷な雨の世界へも、蜜を集めに飛び立っているのです。
蜜蜂は小さな偉大なる冒険者ですね。

ここ最近、巣の見回りをしていると必ずと言っていいほど、巣は数匹のキイロススメバチの襲撃に遭っています。
スズメバチも生きるために、蜜蜂を捕らえようと必死に巣の周りを飛び回っているのです。
そんなスズメバチを僕らは網で捕まえ、ピンセットで摘まみ、蜂蜜に漬けます。
自然界の猛者であるスズメバチのエキスが、浸透圧の高い蜂蜜に溶け出てくるのです。
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(写真は40匹程のスズメバチが浸かった蜂蜜です。舐めると、毒が溶け出しているために苦みがあり、舌が痺れます。1年程熟成させると、その苦みが旨味に変わり、極上の蜂蜜となります。)
マタギであり、自然を愛する昭夫さんは、小さな命でも無駄にはしません。

蜜蜂の大敵であり、人々に忌み嫌われてしまう、そんなスズメバチも本当は僕ら人間を助け、生活を支えてくれています。
畑の野菜につく芋虫や、害虫と呼ばれている多くの虫達を毎日食べてくれているのです。

ジャングルが大好きで、学生時代に9ヶ月間程、僕はブラジルのアマゾンに住んでいました。
その時に、ベネズエラとの国境付近の、美しい高原地帯で、農薬を使わず、有機農業を営む日本人のおじさんと出会いました。
そのおじさんの農園の中や近くの林には、肉食性の蜂の巣が沢山あり、ぶんぶん、ぶんぶんと羽音をたてて蜂達が畑を飛び回っていました。
「この蜂達を駆除しなくなってから、農薬を使わなくても虫に食われることなく作物が良く育つようになったんだ!」と蜂達に囲まれながらおじさんは語ってくれました。
コナンドイルが描いた小説「失われた世界」の舞台となったギアナ高地から吹く、太古の香りを含んだ涼しい風に、そのおじさんの語った言葉はなんと心地よく、心に響いてきたことでしょう。
その響きは今でも僕の中で響き渡っています。

スズメバチ達が与えてくれる恩恵は、虫達の数の抑制だけに留まりません。
スズメバチよりも大きな生き物の餌となり、彼らに命を受け渡し、生かし、この地球の生命の多様性に大きく、大切な貢献をしているのです。
食べ物を食べ、人と話し、行きたい所に行き、今こうして幸せに僕らが生きているのは、目に見えない、膨大な数の小さな命の営みがあってこそなのです。
彼らの幸せは、僕らの幸せでもあります。

スズメバチを見た瞬間に殺気を覚え、殺さなきゃ!と思わずに、彼らと敵対せずに、上手く共生出来る世界がそのうち訪れてくれることを願います。

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話が逸れてしまいましたが、蜜蜂の巣箱を観察していると、壁にはなにやら黒いものが沢山付着しています。
夏の間、こんなものはついていませんでした。
これは蜜蜂達の糞なのです。
「ここに良質な餌があるぞ」と仲間達に教える為にスズメバチがつけていくフェロモンの匂いを消す為に、蜜蜂達が糞をわざとつけているのです。
かつての人間がそうであったように・・・、糞をも利用し、その生活に一切の無駄を出さない彼ら、蜜蜂。
消費過剰な社会生活を営む僕ら人間に、この地球で生きていく上で本当に大切なメッセージを、その小さな体で、命を張って、賢明に毎日毎日訴えてきます。
忙しい手を少しだけ休め、その微かなメッセージにそっと耳を澄ましてみましょう。
きっと何か心に響くものがあるはずです。