旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

地球と話せるようになれ!

秋の暖かい昼下がり、昭夫さんと僕はカボチャ畑に寝そべり、本を読んだり昼寝をしたりしていた。
ずっとバタバタしていた仕事がようやく落ち着き、それは心休まる、穏やかな時間だった。
眠気に誘われるままにウトウトしていると、森の中からけたたましくカラスが鳴きだした。
「おいユーマ、あのカラスが何を言っているのか分かるか?」昭夫さんが言った。
耳をすませ、カラスに意識を絞り、鳴き声に聞き入った。
しかし、何も分からなかった。
カラスは山を森を青空を僕らを見て、何かを感じ、内からほとばしるものを声に出しているのだろう。
でも分からなかった。

その帰り道、昭夫さんが真剣な顔で、真面目に言ってきた。
「木と動物と虫と話せるようになれ!」と。
これはただの喩えではなく、僕らが毎日他の人と会話しているように、他の生き物達とも意思疏通をするということである。

その言葉を境に、僕の日々の意識が変わった。
目に写る草木に、カメムシや鳥達に、今まで以上に意識を向けるようになり、触れる時には触りながら、心の中で話しかけるようになった。

何百年とその場を動かず、移り行く世を見てきた大木。常に動き回り、忙しなく生きる僕らでは決して体感することのない境地を彼らは生きている。
いつ天敵に襲われるのか、感覚を研ぎ澄ませ、草むらや森の中を極小の体で冒険し続ける虫達。
それは一体どれ程の緊張感と好奇心と躍動感に溢れる世界なのだろう。
人間の目線のそれとは桁外れの世界で彼らは生きている。
大空を優雅に飛び回る鳥達。
彼らは地上で生きている僕らでは決して見ることのない世界を、毎日毎日、風に包まれながら、遥かなる空の世界で生きている。
何億年と地球を旅し続ける水。
時に氷河となり、途方もなき時間を眠り、時に宙を漂い、雨となり、大地に生命を与え、川となり、海となり、ありとあらゆる地を流れ続けてきた水!
数多くの命が積み重なり、作られてきた大地。
そこに眠る彼らの言葉には一体どれ程の深みがあり、何が込められているのだろうか。
もし、彼らと会話し、彼らの生きる世界に入ることが出来たのならどれ程深く、楽しい日々になるのだろうか。
今、この地球で何が起きているのか、周りの全てが教えてくれるだろう。
生きる知恵に生き方を必ず導いてくれることだろう。
まだ心が周りのものと一体で、自然と言う概念すら無く、森と山と大地と、この星と共に生きていた昔の人々は、皆が皆、それが出来ていたのだろう。
もし奥会津に暮らす人々が山々と会話し、山と共に生き始めたなら、もしこの日本という、水と山と海と多種多様性に恵まれた国の人々が、自然と共に生き始めたなら、もしこの地球に生きる人々がこの地球と共に生き始めたなら、これから一体どんな星になってゆくのだろう!

「人間は本来、色んな能力を持っている。それが衰えてしまっただけなんだ。どんな能力も、自分で意識して毎日を生きていかないと、その能力は決して使えるようにはならない。俺はもう歳だから無理だ。お前はまだ若いから、今のうちから意識して生きていけば、必ず他の生き物達と話せるようになる!」
昭夫さんは言う。
僕は、こんな話を真剣に、真顔で話す大人には出会ったことがない。

普通の人が聞いたらドン引きするような、どんな話をしても昭夫さんは全てを受け止めてくれる。
どこまでも広がる大洋の様に、森の中に佇む巨木の様に、何が起きても受け止める昭夫さんの心は、とにかくとにかくどこまでも広い。
その広がりは、67年の人生経験で、それまでの過去世で作り上げてきたものなのだろう。
消防士として数えきれないほどの人の死を見、マタギとして山に入って雪崩にあい、熊の穴に入り、一人で吹雪の山を歩き・・・死を覚悟するような膨大なる経験があってこそ作られた心の広さなのだろう。
何事にも動じないその域は遥か先にあり、僕にはまだまだ到達出来ないものである。
それが尊敬する所以であり、目指し、越えたい場所でもある。

そんな昭夫さんが言った。
他の生き物達と会話出来るようになれ!
いつの日かその時がくるだろう。

そしてこれから僕は、僕より下の世代に、同じことを言ってゆく。
調和で満ちた世界になるように!!
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