旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

命を育む

集落から遠く離れた山奥に佇む、ブナの森。

秋の晴れ空の下、穏やかに流れる風の中、厚く積もった枯れ葉の大地の上に、僕はただ一人いた。
膝をつき、枯れ葉を散らしながら大地を撫でてゆく。
枯れ葉をひと撫ですると、現れたのは幾つもの小さな実。
ブナの実だ。
それらは枯れ葉に隠れて、辺り一面を埋め尽くしていた。
僕はそれらを一粒一粒丁寧に拾い集めていった。
それはこれからの季節のおやつであり、盆栽用の種であり、ある人への贈り物でもあった。
 
木が次の命へと繋げる為、花を咲かせ、星の数ほどの実を樹上に実らせる。
その一粒一粒が大地に散らばり、それぞれの運命を流れてゆく。
拾っていると、実にも沢山の姿があった。
虫に食べられている実、腐っている実、若々しく、命の弾けを待つ実・・・
それらは例え、芽を出すことが出来ず、虫に食べられようが、腐ろうが、命を繋げるというブナの木の意思は、切れること無く、受け継がれてゆく。
実は、食べた虫の命を育み、その虫を食べるものの命を育み、更なる生命の広がりへとなってゆく。
腐れば大地にかえり、土を肥やし、新たな草木の活力となってゆく。
拾う僕は、小さな種に悟される。
食べても、盆栽にしても、贈り物として贈っても、その一粒一粒に込められた、かけがえのないブナの木の思いを無駄にしてはならないと。
それが山の掟であり、この世界の掟なのだろう。
 
気がつけば、ずいぶん長い間、大地と向き合っていた。
ふと顔を上げると、木々の間に青空が広がり、その広がりの中を、捉えようもない姿をした白い雲が泳いでいた。
風が撫でつけ、森が一体となってざわめき揺れた。
カサカサと音をたてて、枯れ葉が一斉に舞い落ちた。
それらは、森からの誘いそのものであった。
僕は、拾い集めた実を置き、山の中へと入っていった。
 
一本の大きなブナの木が目に留まり、惹かれた。
今日は声が聞こえるだろうか?
幹に抱きつき、目を閉じて、耳を当て、木に身を委ねた。
突然胸が熱くなり、涙が出てきた。
その涙の元となる感情は、分からない。
嬉しくもなく、悲しくもなく、知っている言葉では言い表せないものであった。
この現象は、アラスカを一人で旅していた時も、度々起きていたものだ。
何故涙が出るのか、この感情は何なのかは、未だによく分からない。
幹から離れ、目を開けると、世界が変わっていた。
より鮮明に、一つ一つのものが輝いて見えた。
木の一本一本の姿形に、幹に刻まれた傷跡に、地を覆う草に葉っぱ、どれ一つとっても、その存在が濃かった。
それぞれが生きてきた命の物語が形となり、ありとあらゆるものに現れていた。
満ち足りた気分だった。
あまりの気持ちよさに、衝動的に僕は足袋を脱ぎ、裸足となった。
その瞬間、大地と直に繋がった。
枯れ葉砕き、その感触を味わった。
倒木の上を歩き、その冷たい皮膚に触れた。
岩に登り、その荒々しさに刺さった。
一歩一歩、足を踏み出す度に大地が莫大な感触を投げ掛けてくる。
次第に視界が狭まり、より一層、より確実な感覚の世界に入り込んでいった。
 
裸足が気持ちよさそうな方へ、心地いい方へとただ歩いた。
気がつくと目の前にあるのは、キノコの森だった。
ナメコが木の幹をびっしり覆い尽くしていた。
近くにムキタケもある。
感動した。
山からの贈り物そのものだった。
 
ここに移り住む前の生活では、ナメコを食べたいときには買わなければならなかった。
お店の棚から手にとり、お金を払って受け取るしかなった。
その中に嬉しさも感動も何も含まれていなかった。
どこで、どんな景色の中で育ったものなのか分からず、何も感じないのは当たり前のことだった。
むしろ、微細なお金でも、減ることに関して嫌な気分すら沸き起こる。
料理して食べるが、中身がなくてスカスカだった。
味が舌を満たすことはあるが、決して心が満たされることはなかった。
それは日々食べていた毎日の食事に言えたことだった。
 
今、目の前にあるのは違った!
ここに来るまでの物語、道中で出会った虫達や木々達。
それら全てがキノコ達には凝縮していた。
大好きな人と食べると、それらが僕の命へとすんなりと沈み込んでいった。
今まででの生活から考えると、5年分は軽く越える量のナメコが、お金を払うことなく、大きな感動と共に採れた。
山は物質的にも精神的にも大きな恵みを与えてくれる場所だった。
命の根源がそこにはあった。
 

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