旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

1人ユーコン川の旅 ~酔っぱらいの村を去り、ビーバー村へ~

僕は目覚め、古びた木の扉を開けて、薄暗いインディアンの小屋から外に出た。清清しい早朝であった。空には白く薄い雲が広がり、それらに遮られて降り注ぐ日差しが柔らかった。心地よい風が村を吹き抜けてゆく。大半の人々はまだ寝ているらしく、騒音と砂ぼこりを巻きちらす車も何も走っていない。嵐のように荒れ狂っていた昨夜とは真逆の世界が広がっていた。そんな朝の、静まり返った涼しい村を、僕は歩き始めた。
しかし、そんな清々しさも直ぐに消え去った。
ある道角を曲がった時だった。小屋の前にインディアンが1人立っていた。その姿を目にし、瞬時に僕は、僕の中の心地よい朝が崩れることを悟った。インディアンは僕に気がつくと、おぼつかない足取りでフラフラとこちらに歩み寄ってきた。僕の目の前に来ると、ろれつのはっきりしない口調で話しかけてきた。「おぅユーマ、どこに行くだぁ?」男の顔は真っ赤で、目の焦点は合わず、酒の臭いが漂ってくる。酔っぱらっていた。朝から壮大に酔っぱらっていた。
フォートユーコンに着き、村のインディアンに招かれて、彼らの家に数日滞在したのだが、その間、物凄い勢いで40度のウィスキーを胃に流し込み、べろんべろんに酔っぱらった多くのインディアンと共に時を過ごしてきた。彼女に振られて目の前でぶっ壊れた洗濯機のように号泣する青年、こうやって悪者をやっつけるんだと鉄パイプを家の中でぶん回すオバチャン、数分おきに何度も何度も名前は何だ、どこから来たんだと同じ質問を繰り返すおじさん、椅子から物凄い勢いでぶっ転びそのまま何が起きたのか分からずに暫くの間唖然と固まる男・・・酒を飲めず、常時しらふだった僕には数日間でだいぶくたびれてしまった。そして素晴らしい早朝に、早速目の前に現れた酔っぱらいを目にし、僕はカヌをー出し、村を去ることに決めた。驚くほど物凄く親切ではあるのだが、僕は朝から晩までべろんべろんに酔っぱらっている彼らに疲れてしまった。

カヌーに乗ると、そこはもう世界がまるで変わった。広大な空が広がり、その下をゆったりと静かに川が流れていた。風が、通りすぎた森の木々の香りを運んできてくれた。それはスプルースであったり、ポプラであったり、その時々によって違った。風は僕に語りかけてくる。それは言葉でなんと表現したら良いのか今はまだ分からない。それは、大きなく、途方もなく大きなものである。広がる広大な世界に吸い込まれ、僕はオールを船に預けて、カヌーを漕がずに水の流れに身を任せることにした。

僕はその日、20時間程ゆっくりと川に流され、大小様々な形をした幾つもの流木が、至るところに積み重なる砂利の岸辺にキャンプをした。朝、目覚めてテントを出た。昨晩行った焚き火跡の前に座わり、目の前に静かに流れる川を見つめた。遠くの対岸の森から鳥の鳴き声が微かに響いてくる。空は曇り、日差しは弱い。それでも水面には、か弱くキラキラと日が光っている。草木の葉を揺らして吹き抜けてくる風が冷たく感じられた。僕は細い枝を集めて小さな火を起こし、近くに生えていたトクサを混ぜて、湯を沸かした。数分後に出来上がるまで、水浴をした。全身水に濡れよりいっそう寒さが増したが、その分不要なものが落ちてスッキリした。涼しい風に煽られ、パチパチと音を立てて燃える火に身を近づける。湯は沸き、コーヒーを作ってコップにに注いだ。立ち上る白い湯気が顔に触れた。ほんのりと暖かった。飲むと暖かい液体が口を満たし、喉を通って胃に達した。通った器官が暖かくなった。火にあたる体の部分が熱くなってきた。先程まで冷たいと感じていた風が、今度は温かく感じられた。暫くすると再び体は冷え、風も冷たくなった。僕はインディアンに貰った丸々1匹の巨大なキングサーモンを切り、フライパンで焼いた。水分を含んだ油が滲み出てきてパチパチと音をたて、オレンジ色の身が薄い灰色へと変わってゆく。ミミズのような細い寄生虫が苦しそうに身をくねらせて柔らかい身から出てき、やがて動かなくなった。暫くして油は茶色く変色して消え、焦げ臭い白い煙が生じてきた。フライパンを火から下ろして、焼けた切り身を箸で口に運んだ。痛いほど熱く、噛むごとに旨味が口に広がった。食べているうちに体の奥から熱が生じるのを感じた。再び冷たかった風は温かくなってきた。雲が薄れて遮られていた日差しが強さを増してきた。一瞬一瞬に小さくも、世界は変化に満ちていた。そしてこれこそが僕の望む世界であった。
カヌーを水に浮かべた当初は、見るもの聞くもの触れるもの全てが真新しく感じられ、興奮の日々であった。それも最近は落ち着いてきて、自分自身の体に心に注意が向けられるようになった。身の回りも変化に富むが、それに反応し、自分自身も常に変化に富んでいた。人が住む村で、人との接するのは刺激的だ。僕は人が大好きだ。しかし、人が誰もいない、大自然の荒野の真っ只中で、1人で過ごす時間もまたこの上なく素晴らしい!

こうして今日7月3日、フォートユーコンから100キロほど離れたビーバー村へたどり着いた。

フォートユーコンのインディアンが皆口にしていた。ビーバー村にアイさんという素晴らしい日本人女性が日本から来て、現地の人と結婚して住んでいるんだと。それを聞いて、ビーバー村に日本人が住んでいることを初めて知った。僕は楽しみになった。辞書を片手に下手くそな英語では伝わらない多くの事を、日本語で思いきり語ろうと楽しみにしていた。おそらく似たような思いで北の地に憧れを抱いたのだろうと思いを馳せた。しかし村につくと、二人のインディアンの女性に迎えられ、あることを伝えられた。1ヶ月程前にアイさんはボートの事故を起こし、現在行方不明なのだそうだ。彼女の家に案内され、数々の嬉しそうに生き生きと生きている彼女の写真を見せられると、途方もない悲しみが込み上げてきた。今日も村人が彼女を探しに川を下っていった。僕は暫くこのビーバー村に滞在しようと思う。

※電波が悪いため、写真は無しです!

ユーコン川1ヶ月目 出発地から1300キロ程の村、フォートユーコンに到着

 ドーソンに滞在し2日目の早朝、町を歩いてるときに僕は尿意を覚え、インフォメーションセンターの中へ入って行った。広い広間を抜けて、建物の奥にあるトイレへと繋がる薄暗い通路を歩いてる時だった。一人の男がトイレから出てきて僕の横を通りすぎた。髭を生やした黒い顔からは年齢は判断しがたい。服装は全体的に茶色を帯び、薄暗い空間の中でより一層地味に見える。何処かの炭鉱から出てきたかのようだった。日本人だった。そしてその男が放つ、僕に何処か似たにおいが、僕を引き留めた。そして振り返り、通路を出て行こうとする男に僕は話しかけた。 

「こんにちは!どこ行くんですか?」 「うわっ、びっくりした!日本人だったのか!?黒すぎて日本人だと思わなかった!」 

彼は自転車で旅をしていた。 

「これからさらに北へ走り、イヌビックという村へ行き、北極海を見るんだ!君は?」 

「僕はカヌーで川をのんびり下ってるんです!あと3ヶ月位かけて海の方まで行こうかなぁ~って!」

 すると彼は梅干しのように顔をしわくちゃにし、悔しそうに言った。

 「なんっっだよっもう!!面白いなっ!!!何で今日なんだよっっ!もう俺出るところなんだよ!!」 

僕の話し方か、それとも旅の内容かよく分からないが何かが彼のツボにはまったらしい。 

「今日もう何処かへ行っちゃうんですか?」 

すると、彼の顔に影がさし込み、何だか暗い雰囲気が滲み出てきた。 

「何かあったんですか?」僕は気になって聞いてみた。 

「実はカメラを水没させちゃってさ・・・何とかメモリーカードは無事だったんだけど本体は壊れちゃったんだ・・・。これからホワホースへヒッチハイクで戻って新しいのを買おうと思うんだ・・・」 

「あぁ・・・」僕はかけてあげる言葉が見つからず、彼の失意に飲み込まれた。 僕は話題を変えようと違う話を持ち出した。 

「これから日本の友人に手紙を書かなきゃ!」 

「日本の何処に出身なの?」 

「埼玉県の田舎町ですよ、日本に帰ったら北海道か会津で良い森を探して、自分で丸太小屋を作って暮らすんです!!」 すると彼の暗い顔が輝き出した。 

「何だよ、それ!それは俺の思い描いていた夢だよ!!めちゃくちゃ面白い!」 そしてまた梅干しのように顔をしわくちゃにし、悔しそうに言った。 

「何で、何で今日会うんだよっっ!!もう俺行くところなんだよっ!!」 

「じゃあその夢の丸太小屋作りを始めたら連絡下さいよ!!」僕は言った。 「え、手伝ってくれるのかい?」 

「いや、作ってるところ見物しようかなと」 

「なんだよっっ!!」彼の顔に再び梅干しが現れた。 

 連絡先を交換したのち、彼は新しいカメラを買いに数日間汗を降り散らして走ってきた来た道を戻るため、薄暗い通路を去っていった。 

 僕はトイレに入った。昔の金鉱時代の雰囲気をそのままに作られたトイレであった。洗面台にある大きな鏡で久しぶりに自分の顔をに眺めた。

 そんなに黒くなかった。日本人と思われないほど、黒くはなかった。 

 


  ドーソンの町を出て、10日ちょっとが過ぎ、僕はアラスカへ入った。今日、ドーソンから500キロ程下流の小さな村、フォートユーコンに到着。この10日間・500キロの道中もまた、多くの事があった!!日々の出来事が全て深い経験として、僕の中に積み重なってゆく。

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朝方のドーソンの町

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ドーソン最終夜の焚き火パーティー

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100人ほどの村、イーグル

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土と共に息づく小屋

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イーグルを歩いていると、さんさんと降り注ぐ暖かい日差しのもと一軒の木造の白い家からクラシックの心地よい音楽が聞こえてきた。見ると家の前の庭におばあちゃんが1人、音楽に合わせて地を踏んでいた。裸足の僕を見て「何て恰好をしてるのよ!?靴を持っていないの?」と哀れみを含んだ驚きの顔を見せた。さらに北へ行くと寒いからと、食料に暖かい服、靴下までくれた。

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イーグルを去って直ぐに出会った川岸の男たち。そのゴーグルで濁った水のなかは見えるのか?僕の質問に彼の答えは・・・?

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荒野の森のなかで犬と共に1人で生きる男、アンディー。自分で家をたて、畑を耕し、魚、熊、鹿を食べている。彼の生き方は、、僕の思い描くこれからの生き方そのものであり、共に過ごした2日間は僕に素晴らしいインスピレーションを与えてくれた。僕が自分の家作りに着手し、良い具合に進んだ頃、再び彼を訪れようと思う。今度は2ヶ月程!!

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熊、ムース、カリブー、ビーバーの骨。

この中から自分で気に入ったものを選び、1日かけてアンディー共にナイフを作った。

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アンディーの犬、トゥーペスと共に近くの湖の上をゆく

f:id:Yu-Ma:20170630051645j:plainビーバーの巣の近くの無人の丸太小屋。この1ヶ月間、暗闇が恋しく、この小屋で、ランプの小さな火と共に過ごした久しぶりの暗闇で一体何を思ったのか・・・?

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太い一本の白樺の傍に建つ無人の丸太小屋。ここで過ごした素晴らしい2日間は・・・?

f:id:Yu-Ma:20170630051833j:plain陽に輝く僕のケツ。動物達も水浴びしするクリーク(小川)で水浴び。姿はなくとも彼らの存在はここにあり!綺麗になるのに石鹸もシャンプーも何も必要ない!!

f:id:Yu-Ma:20170630051856j:plain 貴重な栄養源となっているタンポポ。そして見映えは宜しくないがとびきり上等なパンケーキ!!

ユーコン川3週間目、ドーソンへ到着

3週間ぶりに携帯を開いた。小さな画面は、今まで常に回りに解き放っていた僕の感覚を瞬時に吸い込んでいく。全くこの機械は恐ろしいものである。ようやく抜けきったものの、早くも僕は現代器機の毒に蝕まれてゆく。

 

 5月24日の昼過ぎ、僕はユーコン川下りの出発地点であるテズリン川のジョンソンズクロッシッングにて、カヌーに荷物を積んでいた。すると、まん丸と太ったおやじが何処ともなく現れた。

「そのカヌーで何処まで行くんだ?ドーソンか?(ユーコン川中流の街)」 「いや、ベーリング海まで行く予定なんだ」 話しながら僕は荷物を整理していった。間もなく荷物を積み終え、僕はおやじに別れを告げて岸をゆっくりと離れていった。するとおやじが叫んだ。 「ちょっとまて!どこへ行く!?」 「どこって、海だけど?」 「逆だ!逆!!方向はそっちじゃない!」 僕は地図とコンパスを照らし合わせ、方向を確認した。間違いなかった。向かっている方向は川の下流で間違いなかった。おやじはしきりに手を振って叫んでいる。僕は岸にカヌーを戻し、降りておやじの元へ歩みよって地図とコンパスを見せた。 「いや、ほら見て、僕が向かってた方向で間違いないよ!」 コンパスを訝しげにいじくり回し、そして言った。 「これ、壊れてるんじゃないのか?」 川の水の流れを見れば一目で分かるのだが、流れはゆったりとしすぎて川はまるで湖のように静まり返っていた。おやじはとにかく真剣な顔で逆だと言い張る。その表情は自信と確信に満ち溢れている。僕は何だか自信がなくなってきた。 僕は再びカヌーに乗り込み、さっきとは逆の、おやじが指し示す方向へ漕いでいった。岸から離れ、川の中央へ進んでゆく。おやじの丸まっちい姿はどんどん小さくなっていった。僕は漕いだ。静かな水面を漕いでいった。すると左手に崖のあることに気がついた。地図で確認すると、崖は今見ている方向と逆の右手に書かれている。やはり僕は合っていたのだ。今まさに逆に進んでいるのだ。岸を見るとおやじの姿はもうどこにもなかった。カヌーを回転させ向きを変え、僕は漕いでいった。

 

 

  こうして5月24日、僕のユーコン川の川旅が始まったのである! それから3週間程かけて800キロ位川を下り、今日6月14日、ユーコン川中流、ゴールドラッシュで栄えた街ドーソンへと到着。人は言う、「ここはパーティーシティだ!!」と。 ここまでの3週間、ずっと自然のなかで過ごし、動物や虫、草木と戯れ、本当に色んなことがあった! ※詳しくは本で書くつもりなのでここでは省きます。 ドーソンで2・3日休んで再び出発だ!

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カヌーと僕

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おやじに撮って貰った記念の一枚

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美しい初の魚、グレイリング

 

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全て採集し調理した食事。グレイリングの丸焼き、ワイルドオニオンの塩炒め、スプルースの茶。この地を旅する僕にとってこれ以上ない食事である!

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恐ろし程の寛ぎ様、あまりにも寛ぐので、追い抜く人が写真を撮っていった。

 

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濁った本流の水、透き通った貴重な沢の水!沢を探すのは日々の仕事

 

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朽ち果てた丸太小屋。一軒一軒見るごとに僕の中で、丸太小屋を自分で作ろうという決意が固まってくる。

 

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森すら眠っている早朝の船出はこの上なく清々しい!

 

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雨の日もまた美しい。

 

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のんびりと釣り。ここでは釣れなかった。

 

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ムース!!

 

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風の強い日はカヌーにとって最悪の日。洗濯と読書には最高の日!

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まだ雪が残っていた支流。

 

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朝昼夕と欠かさず行う水浴びは僕を魚のようにする

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美しい朝日

 

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初日の野宿

春の息吹と共に

ラバージ湖の畔で1週間、氷の溶けるのを待っていた訳ではあるが、ただ単に氷が溶けるのだけを待っていたのではない。僕には氷の他に、待っていた別のものがあった。
飛行機から降り立ち、外に出てまず目に入った物は、天を突き刺すかのようにとんがったトウヒの木々であった。道路脇に、街中に、森の中に、峰に雪を被った山々が遠くにそびえ、その山々の麓に・・・どこまでも広がっているかのような広大なユーコンの地にトウヒは生えていた。それがこの地のシンボルであるかのようにトウヒの木々が生えているのである。この地に降りたってはじめのころはトウヒのとんがった葉の枝先に、ほんの少し新芽の気配が漂っているだけであった。それらを見て、あとどれくらいで、新芽が芽吹くのか検討もつかなかった。2週間?3週間?1か月後?全く分からなかった。僕は氷の溶けるのと同時にこのトウヒの新芽が芽吹くのをひたすら待ったのである。
実はこのトウヒの新芽は生で食べられ、お茶も作れるのである。僕はそれを心の底から楽しみにしていた。長い荒野の旅で、トウヒの新芽・・・それは僕の体を作り、命を繋いでくれる重要なもの。旅の出発はこのトウヒの新芽が芽吹くのと重なりたいな・・・と毎日毎日思っていた。
昨日、強風によりラバージ湖の氷が消え去り、僕は出発を決意した。そして今日、街中を歩いていると、なんとトウヒの新芽が今にも芽吹こうとしていたのである!
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もうすでに芽吹き、プルプルの新鮮な黄緑色の新芽を出している枝もあった。堪らず僕は摘まんで口に入れた。苦味と共に喜びがほとばしった。
サマータイムである今のユーコン。日は長い。恐らく明日には、殆どのトウヒの木々から、輝かしく弾ける新芽達を見ることが出来るであろう!!その新芽と共に僕は出発する。僕と一緒に旅をしたいと思っている新芽をどんどん食べ、体の一部にし、一緒に旅をしようではないか!!

ではでは、長くなりましたが・・・トウヒの新芽と共に、行ってきます!!

PS
日本でも、山菜等の春の命が次々と土からボコボコ芽吹いてることだろう。日本にいる多くの人がこれらを口にし、思いっきり元気になれるよう祈っています♪

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ラバージ湖へと流れる雪解けの小川
この川を越えるのに何度もゆるゆるの氷が崩れてずっこけ泥だらけになった

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ラバージ湖のすぐそばに住むデンマークの老夫婦に家に招かれた
彼らは、若い頃、夫婦二人で自然のなかを冒険し、それをデンマークでの講演会で人々に伝える仕事をやっていた。以後、カナダに移住し、楽しく生きている

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食べ物は野菜と豆と米

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食器達

氷は消え、ついにカヌーを浮かべるときがやって来た

パラパラと降っていた雨は止み、それに代わるように風が吹き始めた。風は徐々にその強さを増していった。全てを吹き飛ばすかのように荒れはじめた。僕は堪らず岩影に身を隠した。風は土埃を舞いあげ、木々をユサユサと揺らし、湖の湖面上に大波を生じさせていた。湖に浮かぶ氷は大波によって亀裂が生じ、どんどん崩れていった。風は朝まで止むことなく吹き続けた。
早朝、目覚めていつものように湖を眺めた。昨日まで半分以上湖面を覆っていた氷は跡形もなく消え、山影から差し込むオレンジ色の朝日がキラキラと水面に光輝いていた。美しかった。そして、それは出発の合図でもあった。
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僕はサッと荷物をまとめてキャンプ場を後にし、ヒッチハイクで町へ出た。
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到着初日から色々とお世話になっているカヌーショップ“カヌーピープル”へ行き、扉を潜ると、薄暗い店内からいきなり声が聞こえてきた。
「オーーーーユーマ!森から出てきたか!!元気だったか?!俺は今日出発するぜ!!」ホワイトホースに到着した初日に出会ったイングランド人のハンターという男だった。彼も僕と同じ、ユーコン川を1人アラスカのベーリング海を目指してカヌーで下ろうとしている。明日、最終準備を整えて明後日出発する予定の僕は、のんびりと話ながら彼の準備を見守った。
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閉店間際、オーナーと店員、ハンターと僕で旅の出発を祝って乾杯!
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その後、ハンターは店の裏を流れるユーコン川の水にカヌーを浮かべ去っていった。
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僕の出発地点はユーコン川の支流、テズリン川(ジョンソンクロッシング)だ。この川を1週間程かけて下り、後にユーコン川へと合流する。(1週間氷の溶けるのを待ったラバージ湖は通らないのだが・・・)相当な事がない限りこれ以後、道中ハンターと出会うことはないだろう。それを思うと、川に流されてどんどん小さくなってゆく彼の後ろ姿を見ながら、何だか寂しさが滲み出てきた。ハンター、無事を祈る!!そして最高の川旅を!!!



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PS キャンプ中、不発だった魚の代わりに自生するワイルドオニオンを採集!

森の中で待つ

短い夜が明け、樹上から鳥達の鳴き声が響き渡る。それを聞いて僕は目を覚ます。テントを出、すぐ目の前に広がる湖へと歩いて行く。凍てついた水のなかに入ってゆき、そして顔を洗う。冷たい水をかぶり、目が一瞬にして覚める。そして顔をあげ、広大な湖すを見渡す。湖の表面にはまだ氷が張りつめていた。それを見、僕は思う。まだだ・・・と。


 1週間程前、ユーコン川の玄関口ホワイトホースに到着した僕は現在、町から車で30分程離れたラバージ湖の畔(レイクラバージキャンプ場)にキャンプを張っている。毎日、湖に張った氷の状態を観察し続けている。時たまブラックベアーやきつねが顔をだす森の中に、パリパリと響き渡る氷の割れる音を聞きながら本を読み、食べられる野草を勉強し、時々執筆しながら、僕は待っている。湖の氷が溶けたらカヌーを水に浮かせ、いよいよ旅立つのである!!それはあと1週間~10日程      

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森の中に出来上がった最上の僕の巣

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日々の日課、薪割り

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ヒッチハイクで乗せてくれたおじさん

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町に行くとき以外、靴は基本的に履かない

ユーコン川へ、出発だ!!

棚を開け、静かに眠っていた分厚いアルバムを取りだし、1ページ、また1ページと開いていった。僕がまだ物心つく前の赤ン坊の頃から、小学高学年位までの写真が順々に張ってあった。僕の回りには、いつでも自然が写っていた。 親に連れられて、僕は幼い頃から自然と戯れてきた。夏になれば北海道や離島等へキャンプ道具を積んだ車で行き、森のなかでキャンプしながら旅をした。週末は毎週のように秩父の川に行って魚を釣って焚き火をし、冬になれば雪山でスキーをしていた。

幼稚園は“鴻巣ひかり幼稚園”という所へ入り、様々な体験を積んだ。ひかり幼稚園というところは、野性味溢れる動物園の様な所であった。男女関係なく皆すっぽんぽんに、或いはパンツ一丁になって泥の中で遊び、イナゴや銀杏等を採取して焚き火で焼いて食べ、ガチョウ・鶏・兎・ヤギなどと戯れ、何メートルもの高さの木に猿のようにのぼって、尾瀬等の山で登山をした。 記憶を遡ると、自然のなかで過ごしているとき僕はいつでも楽しいとはまた違う、途方もない満足感・解放感に満たされていた。
今思えば、幼い頃のこういった経験が今に繋がっているのだろう。僕は自然が、大大大大大すきである!!

3年前のあるとき、風呂に入っていた僕はふと思った。これまで生きてきた21年間、体を洗う石鹸で僕は、どれだけ僕の大好きな自然を自ら痛めつけてきたのであろうか・・・、そしてこれから生きる何十年で一体どれ程痛めつけてしまうのだろうか・・・と。それから僕の日常から石鹸は消え失せた。いつでも湯か水で体を流すのみになった。髭も水のみで剃るようになった。不思議と体臭は無臭で、痒みなんかも全く出ない。肌はスベスベになり、強くなった。何より僕は、心地よかった。それから1ヶ月前から僕の生活からシャンプーが消えて、歯磨き粉(重曹にとってかわった)が消え失せた。ここ1ヶ月、物凄く心地よかった。草木や小虫達に喜ばれている気がした。 もっともっと地球の自然を感じたい!!それをかなえるため、僕は今日、ユーコンへ向い、家を出た。

これから10月まで僕は自然にどっぷり浸かって生きていく。カナダ・ホワイトホースを源流とし、アラスカ・ベーリング海まで3000キロ程の長さで流れる大河、ユーコン川。源流にカヌーを浮かべ、ベーリング海を目指して荒野の中で生きていくのである。川には数多くの魚がヒレを振るわせて泳ぎ、ハーブやベリーが数多く自生する。魚を釣り自生する植物を採取し、その地の生きた水を飲む。体の細胞殆どをユーコンの荒野と一緒にし、自然に溶け込むのである。靴を脱ぎ捨てて野山を裸足で駆け巡り、川で沐浴し、天上の星達を眺めながら眠る。ベーリング海を目指すといってもそれはただの薄っぺらい目標であり、別にたどり着かなくても全くいい。気に入った場所があればそこで長期間滞在し、その場をとことん満喫しようと思う! だけども、初めて足を踏み入れるユーコンの自然、そこに対して恐怖心がある。だから僕は牙をむかれないように子ネズミのように縮こまり、謙虚に大人しく生かさせて頂こうと思う。自分なりに、自然へ出来るだけ負担をかけないよう生きてきたこれまでの24年間の人生、そして自然を愛する心、それらをもって自然は大いに僕の味方をしてくれるものと確信している。全く根拠は無いのだが・・・ とにかく、行ってきます!!!! こんなに自然を愛するように育ててくれ、そして自分の道を歩かせてくれている両親に、物凄く感謝!!すっかり忘れ去られた頃にひょっこりと何の問題もなく帰ってくるので、安心して気楽に待っててくれれば良いと思う。めっっっっっっっちゃくちゃユーコンの生活を楽しんでくる♪