旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

偉大なる懐

「山を手入れしてくれないか・・・」
隣のおじさんからの仕事だった。
場所は僕らの集落の直ぐ裏にたつ小高い山。
以前その山で杉の間伐をやったそうだ。
しかし、運び出すのが大変で木は切りっぱなしで放置されている。
それらの木を山から出して掃除してほしいという依頼だった。
出した木材は全て薪にして、全部好きに使っていいという。

季節外れの雪が止んだ。
読んでいた本を閉じ、珈琲をテルモスに入れて家を出た。
途中湧き水を汲んで、僕は山に入っていった。

斜面は急だった。
落ちないように四つん這いで這い上がっていった。
木の幹に掴まり、草の根を掴み、全身使えるとこは全て使う。
頂上を目指して着実に上がっていった。
途中、至るところに切りっぱなしの木が悲しげに放置されてあった。
それらは報われない命だった。

やがて頂上に着いた。
一息つき、僕は片っ端から木を投げ、転がし、大きいものはチェーンソーで切り、下へ下へとどんどん落としていった。
雪に埋もれた丸太を引きずり出し、ひたすら持ち上げては転げ落としてゆく。
フーフーと直ぐに息は上がり、体は火照り、熱い体に森を吹き抜けてくる涼しい風が爽快だった。
古い切り株に腰かけて、テルモスから珈琲をコップに入れ、飲んだ。
苦かった。その苦みで、高ぶっていた気分が落ち着いてきた。
忙しなく動いていた体が止まり、今まで聞こえなかった音が聞こえてくる。
今まで音を発する存在であったが、今では聞く存在になっていた。
川の音、鳥のさえずり、森が風に揺れる音・・・回りを取り巻くすべては生きていた。
それは至福な森の時間だった。
世界一のカフェだった。
辺りを見渡すと、少し前まで丸太のあった場所に日の光が差し込んでいた。
丸太が無くなったことで、その場所にこれから新たに森の新芽が出ることだろう。
色とりどりの生命が息づく豊かな森となり、綺麗な水を育み、川を作り、海を多くの命を生み出してゆく。
それらの命から、僕らは生かされてゆく。
それはつもり僕自信の命を育てるということ。
地球よ、どんどん息を吹き返してほしい!
その手助けならどんどんやってあげよう!!

どれくらいやっていただろうか、相当な量の丸太を山から出し終えた。
全身の筋肉が熱を帯びて躍動していた。
今まで食したこの地の命が、いまこの瞬間に僕の体を介して昇華していた。
山のように積み上がった丸太を改めて眺めた。
安心した。それは次の冬に対する安心感だった。積み上がる丸太が、次の冬の温もりを約束してくれていた。
暖かい約束だった。
安心感と共に途方もない達成感に体が満たされていた。
これ程の達成感を山が与えてくれるとは思わなかった。
山に森は物質的なものはもちろん、それ以上の精神的な贈り物を与えてくれる偉大なる懐だった。

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