旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

1日の始まりはバナナの皮から!

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ホットなコーヒーを片手に新聞を広げ、世間を賑わせているニュースに目を通す。

ジャムが塗られた食パンを頬張りテレビをぼんやりと眺めながら、今日1日の事を考える。

 千差万別とある人々の1日の始まり。

そして八須友磨の1日の始まりはホットなコーヒーでも、新聞でもない。

僕の1日の始まりは…バナナの皮を土から掘り返すことから始まる。

 

 

去年の10月頃からか、朝会社に着くと僕は決まってリンゴを丸かじりするようになった。

理由は単純。リンゴは尿酸値を下げてくれ、何よりも堪らなくうんめぇからだ。

それからというもの毎朝毎朝人が居ないガランとした社内にシャリッ…シャリッとリンゴをかじる音が響くようになった。

それがいつ頃だろうか…春先かな。朝の社内にリンゴをかじる音が聞こえなくなった。

冬の終わりと共にリンゴの時期も終わり、スーパーや八百屋の果物売り場からリンゴの姿が消えてしまったのだ。

 

困った僕はリンゴの代わりになる果物を探し求めた。

イチゴにスイカ、メロンにブルーベリー…美味そうな果物は沢山あった。

しかし毎日食べるのには高すぎる。

そんな中バナナが僕の目にとまった。安くて且つリンゴにも引けを取らぬ美味いバナナ…。

それからというもの僕はリンゴの代わりにバナナを毎朝ゴリラの様にむっしゃむしゃと食べるようになった。

 

バナナとリンゴ…この2つの果物の違う点は、色・形・味等探せばいくらでもある。

けれど…僕の中で決定的に違う点、それは食った後にゴミが出るか出ないかであった。

種や芯も全て食っていたリンゴは食った後に跡形も無くなくなっていたのだが…バナナは違う。流石に皮を食べることは出来ない。

食った後には必ず皮というゴミが生まれる。

 

僕は考えた。毎朝生まれるこのバナナの皮をどうしたものかと。

そして思いついたのが土に返すことだった。

丁度会社の駐車場には錆びれて寂しい花壇があった。

その花壇に僕はバナナの皮をせっせと埋め始めた。

日に日にバナナの皮は花壇に埋められていった。

1ヶ所に埋めるのではない。

その日その日の気分で目につく場所に埋めてゆくのだ。

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雑草がそこいらに散らかり、土は踏み固められて固く、植えてある草木もなんだかパッとしない、お世辞でも綺麗とは言えない花壇。

そんな花壇に変化が起きた。

 

ある日、いつも通りバナナを1本平らげて、埋めようと土を掘り返すと先日埋めたバナナの皮が出てきた。黒く変色し、しなしなと変わり果てていた。

それ自体特に変わった事でも何でもない。

変化は別の所にあった。

バナナの皮から四方八方に慌ただしく散ってゆく奴らがいた。

慌てて土に潜ってゆくもの、体を丸めて身を守ろうとするもの、足を懸命に動かしてその場を一目散にさってゆくもの…

ミミズを始め、ダンゴムシや蟻など小さな虫たちがバナナの皮に群がっていたのだ。

数か月前までは荒れ果てた荒野の様だった花壇に虫たちが姿を現し始めたのだ。

 固かった土も土で毎日僕があくせく掘り返すものだから日に日に柔らかくなっていった。

 

僕が花壇にバナナの皮を埋めると…バナナの皮は周囲に甘い甘い匂いを放つ。

それをいち早く嗅ぎ付ける虫達。

甘い匂いはダンゴムシや蟻等小さな虫たちの知覚に刺激を与え、彼らの足を動かす。

美味しそうな匂いのする方向へ、起伏に富む土を一生懸命彼らは突き進んでゆく。

ミミズはにゅるにゅると土を掘り進めてやって来る。

遠く離れた所から何分もかけて彼らはやって来る。

そうしてついに彼らはその美味しそうな匂いを放つ物体の元へと辿り着く。

彼らにとってそれは新鮮で全く未知なるものである。

バナナなど今まで見たことも食べたことも無いのだから。

バナナは本来日本には無い果物なのだから。

彼らはそんなバナナの皮を食べて一体何を感じるのだろうか?

僕達人間が異国の地を旅し、食べたことの無い料理を食べた時に感じるような感動を彼らも感じているのかもしれない。

 

ゴミ箱にポイと捨ててしまえば後は焼却されてしまうバナナの皮。

しかしそんな皮でもそこいらの土に埋めるだけで、そこに住む生き物達にとってはご馳走になるわけだ。

 

僕らの毎日捨ててゆくゴミの中には1つ工夫すれば何か他に役にたつ様なものはいくらでもあるのだろう。

人間1人が生きていく中で一体どれ程の物を無駄に労費してしまうのだろうか…。

花壇に埋められ腐りかけたバナナの皮に群がる彼らの姿を目にし、そんな思いが毎朝毎朝こみ上げてくる。

 

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ただ漠然と眺めるだけだとなんの面白みも感じない花壇、それは1年前に僕が入社した頃と変わらないことなのだが…今では襲い来る蚊の大群に臆せず土を掘り返してみるとそこにはバナナの皮を美味しそうに食べる彼らの姿があるのである。

 

 

またある日、僕がバナナの皮を埋めている姿を丁度出勤してきた女性社員に見られた。

「あら、八須君。今日は一体何をしているのでしょうか?」

彼女は言った。

「あ、今バナナの皮を埋めてるんです」

僕がそう答えると…

「バナナの皮ですか!?それはまたまた何でしょう?ww」

その場に笑い声が響き渡り、朗らかな空気が流れた。


バナナの皮を埋めるだけで朝の一時がこれほどまでに変わるものなのか……



 

 満員電車に揉まれてはぁーと重苦しいため息を漏らす。

 皆がまだ眠っている薄暗い頃に家を出て土手を散歩し、地平線から昇る朝日を眺めて清々しい気分になる。

 朝食を突きながら家族とのんびりと会話する。

 

千差万別とある人々の1日の始まり。

八須友磨の1日の始まりは満員電車に揉まれてため息を漏らすことでも、地平線から昇る朝日を眺めることでも、家族と会話することでもない

僕の1日の始まりは…バナナの皮を土から掘り返すことから始まるのである。