日に数回、僕らが必ず行く場所がある。 桑の木の下だ。 見上げると、いつでもそこには熟し、黒々と輝く桑の実が実っている。 木の下は言うまでもなく涼しい。 生い茂る枝に葉が生きた傘となり、昼の強烈な陽射しを防いでくれる。 涼しいだけでなくそこは心身…
再び湖に飛び込んだ。潜水して湖底を泳ぐと、夕日が線となって水に突き刺さっていた。それは陸上では決して見ることの出来ない神秘的な世界だった。暫く湖を満喫し、水から上がってハンモックに身を委ね、木漏れ日の下で宙に寝そべった。風が世界に動き、音…
夏が来た! 服を投げ捨て、カルデラの湖に飛び込んだ。 大昔に山が噴火して大穴が空き、長い時間をかけて雨水がたまって出来た神秘的な湖、沼沢湖。 泳ぐ魚を抱き、太陽、月、星々の姿を毎日見続け、降り落ちる雪を受け止め、流れ込む雪解け水を包み込み、風…
涼しい早朝、桑の木に鳥が集って鳴いていた。 もうそろそろ食べ頃なのだろうか? 僕らが木の下に行くと、鳥達は一斉に近くの木々に散らばった。 喜ばしい食事を邪魔して申し訳ない。 見上げると、なっていた。 いくつかの熟した桑の実が朝日を浴びて、輝いて…
「バス停いらないか?」 集落の小さなラーメン屋のなかでおじさんに言われたこの一言が始まりだった。 僕は、集落のバスの停留所をそっくりそのまま貰った。 もう使われず、新しい道路を作るので壊してしまうそうだ。 まだまだ使える停留所、壊すのは勿体無…
地球誕生以来、今までにない新しい朝が毎朝毎朝流れるようにやってくる! テレビや新聞等が流す世の歪みに朝から心かきみだされ、翻弄されることなく、真っ直ぐに地球を見れることは贅沢なことなのだろう。 鳥の鳴き声、川のせせらぎ、空気に空に森に山、自…
僕の住む山の谷の小さな集落に、大嵐がやって来た。 嵐の源は友達だ。 友達の大群が突然遊びにやって来た。先ず襲われたのは師匠のラーメン屋だった。 店内ぴっちぴちに入り、がいがい騒ぎだす。 ラーメンはずるずると腹の中に吸い込まれていった。腹を満た…
熊にかじられてしまった巣箱。 甘い蜂蜜の匂いに狂喜乱舞し、舐めること一心にかじり、引っ掻いたのだろう。 この熊の傷痕が、僕の記憶をほじくった。 そして昔読んだ本を思い出した。 ロシア・シベリアの荒野の探検物語、デルスゥウザーラだ。 熊が木上にあ…
先を先行していた仲間が叫んだ。 「あ、海亀だ!!」 その言葉に引き付けられ、僕を含めた後ろをゆく仲間達が集まった。 目に写ったのは、岩に打ち付けられた海亀の死骸だった。 僕らが行くと、群がっていたヤドカリの群がワッと四方八方に散っていった。 そ…
25歳の僕が最年少であった。 そこから30代、40代、50代、60代、そして75歳の長老と実に幅広い年齢層を成す怪しい集団が、巨大なザックを背負い、沖縄の離島・西表島の地に降り立った。 暑い夏の日差しが降り注ぐ4月の終わりのことだった。そこは静かな浜辺…
まだ雪の残る金山町から何百キロ南の、海を越えてはるか南の島のジャングルに行くために僕は飛行機に乗った。 暫くの間、僕は南国の水に空気に大地に海に抱かれてくる。 向かう先は西表島だ。家作りに蜜蜂に樹液採集、薪集めに畑に山菜祭りに芽吹く新緑の森…
「この小屋をおめーにやっからよ、自分で解体して好きなところに持っていって建てるってのはどうだ?」 2階建ての小屋を目の前に、隣村の政一さんが僕に言った。 その瞬間、めちゃめちゃ面白そうじゃん!!!僕の内部で好奇心が大爆発を起こした。でも、僕は…
ザックにタンクを入れ、僕は夜が明けたばかりの外に出た。太陽はまだ山の影に眠っているが、辺りはもうすっかり明るい。木の枝先、森の中、家の屋根の上、そこら場から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。世界は目覚めていた。それは春と朝を喜ぶ、歓喜の歌声だっ…
近くの畑に、朽ち果てた1本の桐の老木が佇んでいた。 曲がりくねり、半分以上皮が剥がれ落ちている幹にはキツツキや虫食いの穴が幾つも空いていた。 蜜蜂の精にとり憑かれたように無我夢中で巣作りに没頭する僕に、隣のお爺さんがその老木を譲ってくれた。 …
「山を手入れしてくれないか・・・」 隣のおじさんからの仕事だった。 場所は僕らの集落の直ぐ裏にたつ小高い山。 以前その山で杉の間伐をやったそうだ。 しかし、運び出すのが大変で木は切りっぱなしで放置されている。 それらの木を山から出して掃除してほ…
今朝起きてみると、今まで水が少なかった用水路にはドウドウと音をたてて、勢い良く水が流れていた。 焦った。 灰汁や匂いをとるために丸太を浸けておいた場所に全力でかけていった。 呆然とした。 浸けておいた丸太が跡形もなく流されていたのだ。 目の前に…
隣に住むお爺さんから桐の木を斬り倒して欲しいと頼まれた。 見てみると、その桐の木は電線の方に大きく傾き、枝は電線に覆い被さっている。 風や雪で倒れた際にはえらいことになってしまうだろう。 早速僕らは切りにかかった。 梯子をかけ、ノコギリを枝に…
丸太は重かった。 多くの命の積み重ねで出来ている大地。 そこに根を張り、何十年も生きてきた木々の命は重い。 重いはずである。 その重みで身体がきしんだ。 その重い丸太を1つ1つを持ち上げては山の斜面を転がし、落とし、持ち上げ、運んでトラックに積…
目が覚めて歯を磨き、まだぼけーとしている頭を抱えたまま家を出た。 近くの泉で澄んだ水を身体に流し入れて朝を取り込み、まだ日の昇らない森の中へと入ってゆく。 積もった雪は早朝の寒さでカチカチに凍りつき、足を捕まれることなく何処へでも歩いて行け…
3月の頭、僕らは嵐の中にいた。 雨の混じった風が唸りを上げて吹き荒れ、木々がゆっさゆさ揺さぶられていた。 そんな嵐に興奮し、声を高らかに天に向かって声援を飛ばしている初老がいた。 「いいねぇ!!どんどんどん吹き荒れろ!!」 ブルーノさんは少年…
夕暮れ、タオルと着替えが入ったリュックを背負い、僕は家を出た。 向かう先は温泉。 徒歩20分位の共同浴場、八町温泉だった。 それは日々の日課だった。暫くすると、前方の路上に何か落ちていた。 近づくと、それは泥にまみれたきったないお菓子のビニール…
「明後日13日(2月)は空いてる?」 それはお誘いだった。 13日は丁度仕事も何も予定はなかった。 どこに行くのか、誰と会うのか・・・何がなんだか詳しくよく分からなかったが、それは血沸く面白そうなお誘いだった。12日の夕方、僕らは旅立った。 金山町から…
日が暮れた夜、僕は囲炉裏で小さな火を起こす。 暖かい炎を前にご飯を食べて生を受け、読書して世界中を命の危険も無しに思う存分旅し、時に夢想して色んな発見をし、1人を楽しむ。 ストーブとは違い、自然の発する音はなんと心地いいのだろう。 1日のこの…
自由。自由と聞いて、まず頭に思い浮かぶものがある。自由研究だ。小学生の夏休みの課題にあった、「自由研究」である。 当時まだ小さな小学生だった僕は、やるもやらないのも自由。それが自由研究だと思っていた。だから僕は当然、やらなかった。 夏休み明…
1年前、東北を旅している時に、青森県のある小さな港町で、僕は1人のおじさんと出会った。 そのおじさんは僕を潮風に晒された小さな家に招き、酒を飲みながらこれまでの人生の物語を淡々と話し聞かせてくれた。 おじさんは昔、罪を犯し、5年間牢屋の中で…
「雪かきを手伝ってくれないか?」 近所のおじさんのお願いだった。 断る理由も意味もなく、答えは勿論オーケ!仕事が終わり、夕方から雪に埋もれた家を掘り出し救出した。 時計を持たないのでどれくらいの時間かいてたのか分からないけれど、気がつけば全身…
福島県の各地を転々とし、2週間に及ぶ木こり研修が始まった。 (僕はこれから‘’木こり‘’になるのだ)男女含め、続々と集まる10数人の人達。 その中で、一際強烈なオーラを放っていた男がいた。 その男は、なにやら背中に巨大はホタテ貝?鍋?みたいなものを背…
「家」福島県の山奥の小さな集落に住み始めて1ヶ月が過ぎ去った。変化に富んだ日々を、これまで毎日過ごしてきた。つい2日前も、4人の友達が突然遊びにやって来た。個性の強烈な、自然と遊びが大好き愉快なおじさま達だ。その内の2人はすぐ近くの山へバッ…
朝、突然携帯が鳴り響いた。金山町のヒーロー昭夫さん(マタギ)からだった。「今から山に行かないか?」「行きます!」 寸秒たたずの即答だった。マタタビ細工の予定が入っていたのだが、山に一瞬のうちに押し潰された。 1月には珍しいという冷たい雨のなか…
今年は鮭が高くて買えない!という話をちょくちょく耳にする。スーパーに行かない(そもそもスーパーが無いので行けない)ので全く分からないが・・高いのだろうか? ユーコン川を旅してる時、命を燃やし、3000キロの川を遡るなん十なん百匹もの逞しい鮭達を見…