旅する蜂ブログ

奥会津の地球暮らし

~マタギの見習い~ 自然を愛し、地球の詩を書き、奥会津の山奥で素朴に暮らす

ランプ生活

長い間思いこがれていた、念願のランプ生活が昨日から始まった。

ランプに憧れを抱くきっかけとなったのは、一年前のユーコンの旅だった。
アラスカの荒野を旅しているとき、夏を迎えると、やがて荒野には太陽が沈まない白夜がやって来た。
白夜を迎えて初めの頃は、夜が来ない世界に新鮮さを覚え、興奮し、疲れるまで遊びまくっていた。
しかしその輝かしい思いは、数日で色褪せてしまった。
疲れがとれないのだ。
24時間、煌々と降り注ぐ陽が常に焼き付けてくる。
いくら森の中に入ってテントを張っても、木々を突き抜けて射す陽光は、眠ることを許さなかった。
テントはいつも明るく暑く、寝ようにも全然眠れず、疲れが日に日に溜まっていった。
頭はぼけーとし始め、感覚が鈍くなり、酷い倦怠感に包まれていった。

そんなあるとき、川に流されていると、本流に流れ込む支流の川岸にポツリと立つ、ボロボロの小さな小さな丸太小屋を見つけた。
扉を開けると、部屋は薄暗く、ひんやりとした空気が流れ出てきた。
もう誰も住んでいない小屋だった。
小さな窓ガラスから射し込む日差しが暗い部屋の中を線となって差し込み、舞った埃が踊っていた。
何だか安心し、暗い世界への懐かしさを覚えた。
窓には外から板を被せると、部屋の中を完全に真っ暗にすることが出来た。
僕は3つの窓全てを閉ざし、久しい暗闇の中で、死ぬように眠りに落ちた。
普段から時計を身につけないので何時間寝たか分からないが、目が覚めると、溜まりに溜まっていた寝不足に疲れが全て吹き飛んだ。
その場所が気に入り、僕は3日程、その小屋で過ごした。
小屋のすぐ目の前の川岸にはビーバーの巣があり、枝を運んで巣作りをする彼らを見ることが出来た。
カヌーを濃いで魚を釣り、タンポポやヤナギラン等の野草を摘んで食べ、水浴びをしては暗闇の中に潜り込んで眠った。

その小屋にはランプが1つあった。
僕は暗闇の中でランプを灯し、書き物をしたり本を読んだ。
優しい炎に、静かな空間。
その時僕は、例えようもない幸福感に満たされた。
陽から逃れて、暗闇を欲し、それでもランプの小さな光に癒されさているという、自分の中で渦巻く矛盾に面白さがった。
日本に帰ったらこの世界で生きみよう!!
そう思った。

ランプは良い。
薄暗い世界がいままで多くを占めていた視覚というものを狭め、その他のあらゆる感覚が感度を上げ、目覚め始める。

昼があって夜がある地球。
この星に生きる生き物として、大半の人間は、半日以上を明るい世界で生きることに適していないのだろう。
はるか昔からずっと、地球時間で生きてきた僕らは、目も脳も体も、その様に作られていないのが当たり前だ。
白夜を生き、それを身をもって思い、知った。
ランプの小さな炎が極上の一時を流してくれる。
何よりも消費するエネルギーが小さいのが良い。
そして暖かい。
夜はそもそもエネルギーを使わず、地球が休む時間。
本当は暗くなったら眠り、陽のでとともに起きるのが自然なのだろうが、そこは少しだけ甘えよう。
ランプと共にこれから素晴らしい夜の日々を作り上げていこう!

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朝靄の中の老人

西会津で迎えた朝。 外に出ると、陽がまだ目覚めていない世界は白い靄に包まれていた。

すぐ側の神社に吸い込まれるように入って行った。

靄に包まれて、彼らは荘厳と佇んでいた。

樹齢は600年を越すという。

見上げると、はるか樹上へもっていかれそうだった。

今日という一日を目覚め、この瞬間を生き、そしてこんな御老人達とこの朝に出会え、向き合えたことが幸せだった!

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山の一呼吸

沢沿いに続く林道を歩き、山に入り、稜線に続く杉林を抜けると、やがて原生林に入っていった。
ブナやナラの、大きな老人達が生きる、澄みきった生気の満ちる、神聖な領域だった。
前を歩くのは昭夫さんだ。
熊に猪、鹿が残していった痕跡を追いながら、全神経を山に向け、物音をたてないよう、殺気を出さないよう、山の奥へ奥へと慎重に歩いていった。
狭い稜線は曲がりくねって波打ち、両脇には落ち葉の積もった秋の大地が、谷底に向かって落ちていた。
風が吹きあげる度に、木々にぶら下がる枯れ葉がカサカサと音をたてて揺れ、森全体が歌いだす。
そんな中、視界の中で、他の葉が落ちない中を、ある一枚の枯れ葉がヒラヒラと舞いながら地に落ちていった。
その儚い一瞬の出来事に何故か心を奪われ、足が止まった。
一体何故、あの葉だけが落ちたのだろうか・・
しかし考えても分かるはずもなく、僕は再び歩き始めた。

稜線を降り、ブナが立ち並ぶ森の中、ふかふかの厚い枯れ葉の上で僕らは休憩をとった。
寝転び、見上げると、複雑に入り乱れる森の天井が、青空と共に模様となって広がっていた。
風が吹き、木々が揺れ、無数の枯れ葉が魚の様に宙を流れていく。
風が川となり、森の中を流れていた。
それは見事な景色であり、心は満たされ、気持ちが溶けていった。
その時再び、枯れ葉が一枚だけ、ヒラヒラと舞い落ちてきた。
春に芽吹いてから数ヵ月の間、樹上で揺れながら陽を浴び、木の命を支え、木と共に生きてきた一枚の葉。
それが最後、木から離れて地に降りてきていた。
葉にとってそれは、一生に一度の一瞬の旅である。
無数に立ちならぶ木々に見守られながら、小さな葉が親元から離れて旅に出ていた。
波打ちながら落ちるもの、一直線に落ちるもの、くるくる回りながら落ちるもの、風に乗り、遠くまで流れ落ちるもの。
一枚として同じ動きをしている葉はなく、それぞれの歩みを、皆が皆、生きていた
そんな旅する彼らの姿が僕の心を捕らえ、釘付けにした。
葉一枚一枚が喜びとなって落ちていた。
厚く積もる枯れ葉の大地は、彼ら小さな旅人達の喜びで満ち溢れていた。

山はなんとゆっくり呼吸をするのだろう。
春に、多くの命に生命を惜しみ無く分け与える。
虫も鳥も獣達も皆、貰った生命をみなぎらせ、地上を走って飛び回る。
草木は思い切り伸びに伸び、大地を緑一面に埋め尽くす。
そして秋となり、今、彼らに受け渡した命を再び山は吸収していた。
吐いて吸う、一年がかりの山の大きな一呼吸が終わろうとしていた。
呼吸とは流れる四季であり、移り行く変化こそが呼吸であり、生きることであった。
その大きな一呼吸の間に、多くの命の営みが生まれ、そしてそれら全てが再び大地に返ってゆく。
一呼吸一呼吸、命の物語を蓄えて山は成長してきたのだろう。

寝そべり、上を見上げながら僕は一人、大きな感動に包まれていた。
近くに座る昭夫さんが言った。
「見ろ、一本として真っ直ぐに立つ木がない。皆、雪に押されて幹が曲がっている。それでも死なずにしっかり生きて上に上に伸びているんだ。根を見ろ。あんなに酷い斜面でも転がり落ちないように、頑強な根を張って生きているんだ。奴らの傷だらけで曲がった外見は、真っ直ぐに伸びる木よりも酷いもんだけど、そこにこそ生きる強さがあるんだ。内側にこそ本当のかっこよさがあるんだ。それは人も同じことだ。結婚相手を選ぶ時にはお前、必ずそこを見ろ!」 昭夫さんの口から発せられる魂の乗った言葉。
その人生において、ほとんどの時間を山に捧げてきた人の言葉は重く、ずっしりとくる。
山の深く、染み入る言葉が周りを取り囲む木々達と共に入ってきた。
山の中での語りは、そこでしか見られない世界を見せてくれる。
もうこの深みある世界から僕は抜けられないだろう。
鹿に先に僕らの存在を知られ、獲物をとるという猟は失敗したが、それ以上に、山からの教えを多く受けた、別の猟は大成功であった。
そして結婚する相手は、その人の今まで生きてきた道をしっかり感じて、惚れよう!

 

 

 

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山の生命

大地より目覚め、その一生を山に捧げ、山に生きてきた木。
その木が朽ちた時、キノコはその朽ち木を分解して再び大地に返すもの。
木はゆっくりと崩れてゆくその中で、何十年何百年という今までの一生を振り返り、その先の、次なる命へと思いを馳せていることだろう。
ここは急斜面だった。
そんな場所で芽を出し、眼下に広がる世界を眺めながら、雪の日も雷の日も雨の日も晴れの日も、その長い一生で何を見てきたのだろう。
その物語が、その木そのものに微かに刻まれていた。
それらを抱えたまま木は土に返り、その土の命の深みは増してゆく。
そして新たな命は、先代の物語を糧に背を伸ばし、新しい生命の物語を作ってゆく。
そうやってありとあらゆる命の営みがあり、この星という大きな命は育まれ、太くなってゆく。
山には、ゆっくりと流れる川があった。
その流れに揺られて僕らは流れ、生きてゆく。
キノコの味の深みは彼らの深みでもあった。
ナメコづくしの日々はまだまだ終わらない!!!
 

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枯れ葉に眠るナメコ

枯れ葉に埋もれていたナメコ。
もし僕がこの場所に来なかったなら、木の根本に座り込まなかったら、このまま誰にも見つからずに萎れて朽ちていっただろう。
それはそれでこのナメコの辿る道。
この地を取り囲む広大な山々では、殆どのキノコに山菜、木の実達がその様な道を辿ってゆくのだろう。
そして僅か一握りのもの達だけが人々の元にたどり着く。
僕はこのナメコの元にきた。
そして見つけ、摘み取った。
僕らの中に入り、僕らとなって生きてゆくこととなったナメコ達。
このナメコ達の為にも素晴らしい世界を見せてあげよう。
偶然の偶然の重なりで出会い、毎日食べている食物全ては奇跡の産物!

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命を育む

集落から遠く離れた山奥に佇む、ブナの森。

秋の晴れ空の下、穏やかに流れる風の中、厚く積もった枯れ葉の大地の上に、僕はただ一人いた。
膝をつき、枯れ葉を散らしながら大地を撫でてゆく。
枯れ葉をひと撫ですると、現れたのは幾つもの小さな実。
ブナの実だ。
それらは枯れ葉に隠れて、辺り一面を埋め尽くしていた。
僕はそれらを一粒一粒丁寧に拾い集めていった。
それはこれからの季節のおやつであり、盆栽用の種であり、ある人への贈り物でもあった。
 
木が次の命へと繋げる為、花を咲かせ、星の数ほどの実を樹上に実らせる。
その一粒一粒が大地に散らばり、それぞれの運命を流れてゆく。
拾っていると、実にも沢山の姿があった。
虫に食べられている実、腐っている実、若々しく、命の弾けを待つ実・・・
それらは例え、芽を出すことが出来ず、虫に食べられようが、腐ろうが、命を繋げるというブナの木の意思は、切れること無く、受け継がれてゆく。
実は、食べた虫の命を育み、その虫を食べるものの命を育み、更なる生命の広がりへとなってゆく。
腐れば大地にかえり、土を肥やし、新たな草木の活力となってゆく。
拾う僕は、小さな種に悟される。
食べても、盆栽にしても、贈り物として贈っても、その一粒一粒に込められた、かけがえのないブナの木の思いを無駄にしてはならないと。
それが山の掟であり、この世界の掟なのだろう。
 
気がつけば、ずいぶん長い間、大地と向き合っていた。
ふと顔を上げると、木々の間に青空が広がり、その広がりの中を、捉えようもない姿をした白い雲が泳いでいた。
風が撫でつけ、森が一体となってざわめき揺れた。
カサカサと音をたてて、枯れ葉が一斉に舞い落ちた。
それらは、森からの誘いそのものであった。
僕は、拾い集めた実を置き、山の中へと入っていった。
 
一本の大きなブナの木が目に留まり、惹かれた。
今日は声が聞こえるだろうか?
幹に抱きつき、目を閉じて、耳を当て、木に身を委ねた。
突然胸が熱くなり、涙が出てきた。
その涙の元となる感情は、分からない。
嬉しくもなく、悲しくもなく、知っている言葉では言い表せないものであった。
この現象は、アラスカを一人で旅していた時も、度々起きていたものだ。
何故涙が出るのか、この感情は何なのかは、未だによく分からない。
幹から離れ、目を開けると、世界が変わっていた。
より鮮明に、一つ一つのものが輝いて見えた。
木の一本一本の姿形に、幹に刻まれた傷跡に、地を覆う草に葉っぱ、どれ一つとっても、その存在が濃かった。
それぞれが生きてきた命の物語が形となり、ありとあらゆるものに現れていた。
満ち足りた気分だった。
あまりの気持ちよさに、衝動的に僕は足袋を脱ぎ、裸足となった。
その瞬間、大地と直に繋がった。
枯れ葉砕き、その感触を味わった。
倒木の上を歩き、その冷たい皮膚に触れた。
岩に登り、その荒々しさに刺さった。
一歩一歩、足を踏み出す度に大地が莫大な感触を投げ掛けてくる。
次第に視界が狭まり、より一層、より確実な感覚の世界に入り込んでいった。
 
裸足が気持ちよさそうな方へ、心地いい方へとただ歩いた。
気がつくと目の前にあるのは、キノコの森だった。
ナメコが木の幹をびっしり覆い尽くしていた。
近くにムキタケもある。
感動した。
山からの贈り物そのものだった。
 
ここに移り住む前の生活では、ナメコを食べたいときには買わなければならなかった。
お店の棚から手にとり、お金を払って受け取るしかなった。
その中に嬉しさも感動も何も含まれていなかった。
どこで、どんな景色の中で育ったものなのか分からず、何も感じないのは当たり前のことだった。
むしろ、微細なお金でも、減ることに関して嫌な気分すら沸き起こる。
料理して食べるが、中身がなくてスカスカだった。
味が舌を満たすことはあるが、決して心が満たされることはなかった。
それは日々食べていた毎日の食事に言えたことだった。
 
今、目の前にあるのは違った!
ここに来るまでの物語、道中で出会った虫達や木々達。
それら全てがキノコ達には凝縮していた。
大好きな人と食べると、それらが僕の命へとすんなりと沈み込んでいった。
今まででの生活から考えると、5年分は軽く越える量のナメコが、お金を払うことなく、大きな感動と共に採れた。
山は物質的にも精神的にも大きな恵みを与えてくれる場所だった。
命の根源がそこにはあった。
 

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